what i read: フラクタル・チャイルド 
ここは天秤の国


*Cover* 書名フラクタル・チャイルド ここは天秤の国
著者竹岡葉月 Hazuki Takeoka
発行所集英社(集英社コバルト文庫)
発行日2003.02.10
ISBN4-08-600227-2

 新大陸の調査へと派遣されたかれらは、廃棄されたとしかみえない無人の都市を発見した。無人の都市と調査隊が断定しかけたとき、機能していないと見えた機械が、四角い箱のモニター画面が、手をはやし、隊員に問いかけた。

『汝は天秤の皿に乗る者か?』

 そうだ、と答えたその瞬間、積層都市ライブラは精霊と精霊使いによって息を吹きこまれ、よみがえった。

 そして時は流れ、ライブラを襲った災厄の結果、最下層に近いフロア1に寄り集まった三人の若者――戦闘担当のサキ、走り屋のジュラ、公認されない単独精霊使いのカイは、「代行屋」を営んでいた。いささか胡散臭いながら実力をともなうかれらのもとへ、人手のたりない市警から代行依頼が舞いこんだ。フロア1では無視されるのが当たり前の変死事件を、調査しろという。被害者はストリップ・ダンサーの美女と、名前も知れない若者。さっそく調査に向かったサキたちは、見栄えのしない若者が、クラッシュ・ストロベリーと呼ばれる麻薬の売人だったという情報を得るが――

〈東方ウィッチクラフト(*1)〉などの著者の新シリーズ。刊行されてから入手までに一年近くかかってしまったのは、どうにかならないものか……。やっぱり本屋に入荷するのを辛抱強く待つのではなく、ネット書店でさっさと手に入れた方が賢明なのか?

 ともあれ、読みはじめてびっくり。今回の話は、世界設定が大がかり。紹介文も、ほとんど設定の説明のようなものになってしまった。

 無人都市と精霊システムの謎は、この一冊では、まき散らされたまま。まったく明かされずに終わる。

 精霊がすべてを動かすという設定は、それはそれで受け入れてしまえば「まぁそんなもんか」なのだが、同時にそれはどうも我々の認識する通信網というか、デジタルなネットワークの世界にかなり似ている。でも精霊。動力も全部精霊なのかな? なんてことを気にしてはいけないのかもしれないが、やはり気になる。

 契約によって「精霊」側に生じるメリットは、いったい、なんなのだろう? うーん。

 気になるといえば最初の「母大陸」だの「新大陸」だのいう表現も気になる。いったい、ここは、どこなのか?

 ライブラという都市は我々の既知の惑星(つまり地球)上にあるのか、時間軸的にはどこに属しているのか、いったい現実とどういう関連性がある(もしくは、ない)世界なのか?

 という疑問が本編にいつか関係してくるものなのか? 適当に無視しちゃっていいのか、それとも心にとめておけば、そのうち「あっ、なるほど!」と膝をうてる日が来るのか?

 延々と疑問を呈してきた背景はともかく、前景で活躍するキャラクターたちは、いつもの竹岡葉月作品らしく、清々しさであったり、あっけらかんとした毒であったり、前向き前のめりな強さと勢いであったりをそなえていて、それを描写していく文章もいつも通り。

 逆にいうと、大がかりな設定の上にたつ物語を、いつもの手法で描写していくから、違和感のようなものを感じるのかもしれない。

 ラストは切ない。

 ひどいネタバレになるので詳細な感想は書けないが、コミュニケーションをうまくとれないキャラクターが、「うまくない」コミュニケーション(のようなもの)をした結果、やるせない状況に追い込まれてしまうのは、痛々しい。

 はっきりと、自業自得ではあるのだが、悪人に天罰が当たったー! みたいな爽快感とは無縁の結末。さりとて酷い! とも思えない。自業自得だから。ただ、痛々しいと感ずるばかりである。

 その痛々しさをも赦してしまえるのが、著者の作品がいつもそなえている包容力というか、おおらかさなのだと思う。


*1〈東方ウィッチクラフト〉
 シリーズ〈東方ウィッチクラフト〉は完結済み。そしてわたしは読了済みだが現時点でサイト上にすべての感想はないので悪しからず。
  1. 東方ウィッチクラフト 垣根の上の人』 →感想
  2. 東方ウィッチクラフト ―螺旋舞踏―』 →感想
  3. 東方ウィッチクラフト ―神様はダイスを振らない―
  4. 東方ウィッチクラフト ―彼女は永遠の森で―
  5. 東方ウィッチクラフト ―人の望みの喜びを―
〈フラクタル・チャイルド〉
 本作が含まれる〈フラクタル・チャイルド〉のラインナップは以下の通り。
  1. フラクタル・チャイルド ここは天秤の国
  2. 『ストロボの赤』 →感想
  3. 『女神の歯車』 →感想

読了:2004.01.07 | 公開:2004.01.12 | 修正:2004.04.06


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