フェリオは望まれず生まれた妾腹の第四王子。王家と神殿との友好関係を示すために、神殿に長期滞在する――いわば閑職にあって、彼は気楽な生活をそれなりに楽しんでいた。自分のような存在は、出番がないに越したことがないのだ。王位継承が当然と考えられている第一王子はもちろん、第二第三王子も健在、そこで第四王子が出張れば国を割ることになるのだから。
神殿が護る、直径百メートルはあろうかという黒い《御柱》。宙に浮かぶその《御柱》に、女性の姿をした幽霊を見たという目撃証言が相次いだ。好奇心にかられて覗きに行ったフェリオの前に、少女が姿をあらわした。囚われの身としか思えないその少女に向かって、思わずフェリオは手をさしのべ――。
安心して読める実力派の新シリーズ。
世間的にはファンタジーと認識するにたる道具立てだと思うが、わたしの感覚ではSF寄りの感触がある物語。
世界設定には、目立った破綻はないようで、まさしく「安心して」読めるのがポイント高し。星の色によってその老若を知るという知識がどうやら伝承として存在するらしく、そんなものは一般人には関係ないから真偽なんてどうでもいいとか、そういう受けとめられかたをしている世界。空にいびつな形の月が浮かび、年に一度、空から鐘の音が降ってくる――このあたりの設定は、ゆくゆくひもとかれる謎なのだろうが、種明かし次第で、最終的にどのジャンルに属するかが決まるのであろう。
しかし、ジャンル的にどこに属すると感覚するかは、物語がおもしろいかどうかの評価とは、まったくの別物。
主人公のフェリオは早くに母を亡くし、後ろ楯となってくれる人もなく、さりとて周囲を恨むというような暗い感情とは無縁に育った、いわば善人。自分のような存在が必要にならない方が国は安泰なのだ、という醒めた観点からものを見ているものの、そういった大局の判断とは別に、目の前で暴虐非道がなされれば、即座にこれと対決する人でもあり、立場をわきまえてないだろという見方もあるだろうが、読者に与える好感度の高い、まさに主役というキャラクター。
その彼を中心に、《御柱》から出現した、二面性をそなえる謎の少女リセリナ、幼なじみで生真面目な神官のウルク、幼少時の孤独から彼を救ってくれた騎士団長ウィスタル、策謀家である若き司教カシナートなど、それぞれに奥行きを感じさせるキャラクターが多数存在して、物語の展開をひと筋縄ではいかないものにしている。
剣戟シーンに迫力があるのも嬉しい。
難をいえば、フェリオがちょっと強すぎるかと。いくら剣聖ウィスタルに教えられたとはいえ、本業戦士でもなく毎日修練を欠かさないといった描写もないフェリオが、あまり得意とはいえない武器で、神殿騎士団の二番手を負かしてしまうのは、なんとなく納得いかない。フェリオが強いのではなく、神殿騎士団がふれこみより弱いのではと感じてしまった。
ともあれ、物語はまだはじまったばかり。空ノ鐘の秘密がときあかされるのは、いつになるのか。続刊を楽しみに待とう。
読了:2004.01.04 | 公開:2004.01.06 | 修正:--