what i read: ストロボの赤
〈フラクタル・チャイルド〉


*Cover* 書名『ストロボの赤』
〈フラクタル・チャイルド〉
著者竹岡葉月 Hazuki Takeoka
発行所集英社(集英社コバルト文庫)
発行日2003.07.10
ISBN4-08-600291-4

 精霊の力で動く積層都市、ライブラ。その最底辺に近いフロア1市で、代行屋――他人の用事を文字どおり「代行」する職業を営む三人がいた。射撃の名手で戦闘&主夫担当のサキ、走り屋のジュラ、そして政府に禁じられた個人契約の精霊使いで社長のカイ。都市を襲った災厄のせいで巡り合い、寄り添いあって家族のようになってきた〈オフィス・サイズ〉の、それがフル・メンバーだ。

 カイが受けた仕事は、勢力を強めてきた新興宗教の少年教祖、カルマ・サカザキの護衛。先視の能力があるといわれるカルマは、実はカイと同様の個人契約の精霊使い。信者たちの個人情報を精霊に調べさせては、「お告げ」に使っていたのだ。オフィス・サイズのお得意様でもあるカルマだったが、組織の成長いちじるしく、他の宗教団体から敵視されるばかりか、命まで狙われるようになっていた。

 カルマの護衛についたサキは、手から火球をはなつ少女に襲われた。なんとかその襲撃を食い止め、少女をとりおさえようとしたとき、彼を襲う人影。少女とサキのあいだに立ったのは、銀髪の――忘れもしない幼なじみ、九年前に別れたきりのユノーだった。

『フラクタル・チャイルド ここは天秤の国』(*1)のシリーズ第二作。

 一作めより設定がこなれていて(あるいは読者のわたしが慣れたのか?)、テンポよく読めるし、倍はおもしろい。

 ぽんぽんと調子のいい悪口雑言をくりだす教祖カルマのおかげかもしれないが、会話を読んでいるだけで楽しく感じる。

 なにげない会話だし、教祖様は入っていないのだが、こんなやりとりとか。

「仕事用に使ってるらしいんだけどさ。ツインエンジンで四十バルブ八気筒でしょ。排気は千三百そこそこでも馬力は――合わせて六百前後くらい行くんじゃないかなあ」
「仕事? なんや」
「花屋さん」
「そんな危険な花屋とは縁をきれ!」(p.210)

 いや、むしろそんなオモロい花屋とは積極的につきあった方が。

 前回ほどではないにせよ、今回も「黒幕はこのひとでした!」の種明かしの部分には、多少の痛々しさを感じる。ただし、それを受けとめるキャラクターが、あっけらかんと前向きなので、ずいぶんダメージが低くて済む。読後の印象が、すこーんと明るいのだ。

 前巻の感想で頭をひねっていた「精霊」まわりだが、今回の物語の後半で、かなりわかるようになったし、「旧大陸」や「新大陸」といった過去の設定にも物語内で頻繁にふれられているということは、やはりこのへんの設定はシリーズ展開がつづけば、ああなるほど、という話になるはずなのだろう。と、思う。

 一冊めで前フリとして登場した初代知事についても、いったいあのちぎれたシーンのあとになにが起きたのか、これでは気になってしまうではないか。アレもコレも気になる気になる。

 前のように、どうなってんのかなー、考えてあんのかな、ないのかな、という「気になる」ではなく、これはあれこれ仕掛けがあるんだろうなぁ、知りたいなあ、どうなってるんだろう? という「気になる」なのだ。ああ気になる。

 というか、これだけアレコレふられてしまうと、つづきを読ませてほしいなぁ。

 最近は新しいシリーズ(*2) の刊行がつづいているようだが、できれば〈フラクタル・チャイルド〉の方も新刊を期待したいところだ。


*1フラクタル・チャイルド ここは天秤の国
 シリーズ第一作にあたる。例によって番号がついていない。しかも一巻めは「フラクタル・チャイルド」がメインのタイトルで「ここは天秤の国」が小さく表示されていたが、二巻めからは「ストロボの赤」がでっかくて、「フラクタル・チャイルド」が小さい表示。最近はこういうのが流行なのか。
 →感想
 本作が含まれる〈フラクタル・チャイルド〉のラインナップは以下の通り。
  1. フラクタル・チャイルド ここは天秤の国』 →感想
  2. 『ストロボの赤』
  3. 『女神の歯車』 →感想
*2 新しいシリーズ
『なかないでストレイシープ』のこと。去年(2003年)読んだので、感想は掲示板にメモ程度。現時点までで2冊刊行済み。
  1. なかないでストレイシープ』 →感想
  2. なかないでストレイシープ 銀の魔法と黒衣のドレス

読了:2004.01.12 | 公開:2004.01.15 | 修正:2004.04.06


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