例によって番号がついていないが、シリーズ第二作。前作は『東方ウィッチクラフト ―垣根の上の人―』(
*1)……だが、背表紙には「東方ウィッチクラフト」としか書かれていないなあ。
とにかく、サブタイトルのフォントが小さい>背表紙。『魔女の結婚 運命は祝祭とともに』(
*2)のときも思ったのだが、これでは棚に並べたとき、どれがなんだかサッパリ。表一は、イラストを見れば「まえと違う」のがわかるからまだしも……。
中学生・観凪一子は、思いこみと突っ走りと偶然から、憧れの高校生・滋賀柾季の使い魔にされてしまう。そう、柾季は皆様の役に立つ魔女を目指す高校生だったのだ! そして今日も柾季は無銭飲食の常習犯を、ほとんど肉体技だけで倒し、絶好調。
しかし一子は絶不調だった。最近、やることなすことツイてない。自動車に轢かれかけたこともある。
そのとき一子を救ってくれたのは、パチンコ店アルバイトの凛々しい女性だった。なんとかお礼を言いたいと彼女の勤務先を訪れて、一子は仰天した。なんと、またしても、ひき逃げ車両の姿があるではないか。今日はピザ屋のバイトとて宅配バイクに乗っていた玲奈(それが一子の命の恩人の名前である)とともに、逆襲に転じて不審車両の後を追うまさにそのとき、柾季から呼び出しがかかる。
そんな場合じゃなーい!
一子は敢然と呼び出しを無視したが、その晩、柾季が一子の部屋にあらわれた。今日の彼は放火犯をシメて来たらしいが、使い魔が来なかったせいで余計な苦戦を強いられたと言う。あまりに勝手な言い草に、一子、ついに爆発。あたしだって大変なんだから、と叫んでものを投げつけるも、柾季も掴んで投げ返して応戦。言わなきゃわからないんだから、と一子に言う。
「だから、おれも言いに来たんだから」
そして、一子の身の回りに起きる異変の原因に、心当たりがないわけではないとも。
相変わらずのハイ・テンションで駆け抜ける一冊。今回のゲスト・キャラ(というか、要するに柾季が魔女として救わねばならないと思う相手)は、夢にすべてを賭けた女性。
実は滋賀・母はやはり魔女であり、同時に世界的なダンサーでもあるのだが、その彼女のもとへの押しかけ弟子入り希望者が、一子の命の恩人である玲奈なのだ。
一子に対しては、あんなのはしょっちゅう見かけると冷たくいなして嫌われる柾季だが、その実、見捨てきれずに優しくしちゃってもう滋賀くんったらやっぱりわたしのタイプだわー!(←ばか)
というわけで、やっぱりこのシリーズの読みドコロは、一子の堂に入った突っ走りっぷりと、柾季の傍若無人(でも優しい)っぷりだと思われる。これが気に入ればどこまでもついて行けそうだし、この主役ふたりにまったくチャーミングさを感じなければ、たぶん、あんまりおもしろく読めないのではないかなあ。
文章も一子のスピードで突っ走っているので、テンポがあうかあわないかが問題ではないかと思う。
ゲスト・キャラはちょっとリアリティが不足かなあ。わたしはこのシリーズにはリアルさは求めていないので、それはまったくかまわないのだが、もし、「お悩み」キャラの悩みとその解決法がもっと一般的なカタルシスの解放へつながるように演出できれば、もっと普遍的な読者を獲得できる作品へ、大化けするのではないかとも思う。
そのほか今回の読みどころは、似た者母子の壮絶バトルとか。滋賀・母は、やはり年の功で強し……。
人が人に「なにかしてあげよう」というのは、傲慢な考えである場合もあって、なにより重要なのは、自分自身がまず確固とした存在でいること、流されないこと、そしてきちんと受け止めてあげられることだという(意訳)、滋賀・母の主張は正論。
でも、なにかしてあげようという人の善意や行為が実際に助けになる場合もあるのだし。なにより、どんなにデキた人だって、みんなが同じデキた人じゃつまらないから、柾季には今後も独自路線を突っ走ってほしい。
でも、食い逃げとか放火犯を懲らしめるのが魔女道か? ……。まあいいか。
それから、前回も言及した巨大写植。今回、はじめの巨大写植(p.13)で退いてしまい、もうちょっとで本を閉じて読むのをやめるところまでいった。巨大写植を使うのは、わたしがもっと中身に入りこんで、ぬきさしならなくなってからにしてほしい。お願いします……ってひとりの都合でそんな。無理か。
- *1『東方ウィッチクラフト ―垣根の上の人―』
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高校生魔女・滋賀柾季、鮮烈のデヴュー作! ←そういう本として読むには無理が。→感想
- *1『魔女の結婚 ―運命は祝祭とともに―』
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運命の人との結婚願望の赴くまま突っ走るケルトの巫女姫エレインと、冷血魔術師マティアス及び愉快な仲間たちの珍道中……という紹介もなにか間違っているような。→感想
読了:2001.09.29 | 公開:2001.10.01 | 修正:2001.12.18