what i read: 三国志 二の巻 
参旗の星


*Cover* 書名三国志 二の巻 参旗の星
著者北方謙三 Kenzo Kitakata
発行所角川春樹事務所(ハルキ文庫/時代小説文庫)
発行日2001.07.18(角川春樹事務所/1996.12)
ISBN4894568756

 三国志、その2。一巻を読みながら、貂蝉がいない、貂蝉がいない、いつ出てくるんだろう、もしや出てこないのでは? と悶々としたのは、そもそも三国志を読み返したいと思った理由が、例の『真・三国無双 2』(*1)に貂蝉が登場するからである。
「虎牢関の戦い」というマップで、虎牢関の扉が開くと最初に登場する有名武将(ゲーム上、キャラクターのくくりとして、「名前がついて」いて、登場時に「名告りをあげ」、倒したあとに「捨てぜりふを吐いて逃げる/今際の際の一言を遺す」と「有名武将」ということになっているのだ。あと、固有のキャラクター・グラフィックがある……というのも条件なのかな? ともあれ、貂蝉はこのすべてを満たしている)が、この貂蝉なのである。
 たまげた。
 だって貂蝉ってそもそも呂布と董卓のあいだを裂くために送り込まれた傾国クラスの美女のはずで……なんで董卓軍で戦ってるわけ? わたしの記憶違い? いやそんな馬鹿な、と読み始めた北方版『三国志』では、そもそも貂蝉がまったく出てこないというこのクラクラ感。

 ともあれ、以下に2巻見せ場集を。例によって三国志をご存じないかたにはネタバレ、尚且つもしご存じであっても北方版三国志を読むおつもりがないかたにもネタバレな内容であるゆえ、各自のご判断でお読みになるか否かをお決めくだされ。






●荀イク(或+ノ←右下の「ノ」がもう一本ある字)
 袁紹を見限って曹操のもとへ来る。才知の人。まだ売り出し中の曹操のもと、とりあえず民政担当としてその手腕をふるうも、第一の試練、五千の兵をもって四万の寄せ手(賊軍)から守りきるという難題にぶちあたる。曹操は賊の本拠地を叩けば荀イクを攻めている者どもも散るだろうと、救援を差し向けず、軍を黒山へまわす。
 結果、荀イクは圧倒的多数の敵を凌ぎきる。

 この間に、朱儁将軍が呂布と対決して惨敗。

●呂布と王允
 呂布の妻への愛情と、麾下の騎馬隊への執着を利用して、うまいこと董卓を殺させた王允。しかしその後、呂布の意識から王允はほとんど消えている。利用されたような気がしないでもないが、どうでもいい、というような扱い。
 ああ、ついに貂蝉は登場しなかった……。
 三国志で名前が出てきてかつ活躍する女性キャラクターが、貂蝉くらいのものだから、印象に残っていたんだろうなあ。登場しなかったことがオドロキであり、残念でもあるが、こういう話になるなら貂蝉が入りこむ隙はない。
 ともあれ、妻・瑶の死。長安への敵兵の乱入、呂布は麾下の騎馬隊とともに赤兎馬を駆って脱出。

●陳宮
 黄巾軍と戦って戦死した劉岱の遺臣として登場。黄巾の弱点である兵糧を、青州の隣にあたる徐州の陶謙がこっそり流している、それを奪えと命じられるのが初仕事。誰の仕業かわからないように完璧にこなしたと報告し、曹操のしわざとわかるようにしろと叱られる。

●許チョ(ころもへん+者/正確には「楮」の左がころもへん)
 変装して黄巾軍のあいだを抜け、曹操のもとへ使者としてあらわれる。青州に満ちる百万の黄巾軍のなかで、孤塁を守る鮑信からの使者である。曹操は二万の手勢しか持たず、戦死した劉岱の残兵を集めるため、もう十日待てと許チョに返事をする。二十万の盧城の囲みを流言も利用して解き、鮑信を救出。彼の手勢と合流して四万に近づく。それでも百万の前では風前の灯。

●青州黄巾軍
 戦闘また戦闘。大軍の中核を窺い、それを叩き潰すのが上策とわかっていても、とにかく圧倒的な量の「人の壁」に阻まれて到達することもできない。いかに「こちらの戦のやりかた」に相手を引きずりこむかが鍵だと言いながら、曹操自らが騎馬隊の戦闘に立って夜襲をくり返す。敵の中核を突き崩す突撃で、先陣を切った鮑信が戦死。たしか董卓(実質的には呂布)対諸候連合軍の戦闘で、抜け駆けしようとしたのもこの鮑信だったのでは。戦闘に立つのが好きだったのだなあ。猪武者?

●夏候惇・淵、典韋
 夏候惇はつねに曹操の傍らにあり、冷静沈着、戦ぶりは勇猛なれど穏やかな武将であるように描かれている。荀イクの包囲をそのままに黒山の本拠地を攻めたときも、見殺しにするような作戦は承服しがたいという意見を述べている。夏候淵はそれに比べるとやや印象が薄いが、ともに親族として曹操を支える存在。
 典韋は黄巾側の暗殺を警戒した夏候惇が連れてくる。曹操は惇が推す男なら、と彼を身近に置くことを即決。

●荀イク/試練その2
 今度は黄巾軍との停戦交渉。曹操の条件は信仰の容認。以下、p.104から引用。曹操の台詞。
「人の心を、物で釣ろうと思ったら、この任はうまくいくぬぞ。おまえは命を賭け、理をもって降伏が得策であることを説くのだ。私がこれほど苦しい戦をし、多くの兵を失ったのは、闘うだけ闘わなければ、まことの講和はできぬ、と考えたからだ」
 というわけで、命を賭けて荀イク、講和を実現。三月たって黄巾の首領たちと出てきたときには、頬はこけ髪の鬢のあたりが白くなり、自分で歩くこともできず輿に乗せられて。文官にも命懸けの見せ場あり。

●その間、劉備は
 救援を頼まれれば応じて闘う、という按配で流浪中。

●呂布は
 流浪して、袁紹のもとへ。瑶亡きあと、生きていると常山郡の賊徒を掃討するという機会を与えられ、麾下の五百を率いて大勝。

●陳宮・その2
 曹操の父が陶謙の配下に殺される。曹操は激怒して来襲、皆殺し戦をくりひろげる。救援依頼を受けて劉備もあらわれるが、豪族の勢力が強い土地柄、陶謙の支持が絶対ではないため、客将としても自由に動けない(らしい、と曹操に推測させている)。その頃、陳宮が曹操の旧友・張バク(しんにょう+貌)とともに出奔、呂布と結ぶ。
 陳宮が曹操を見限った理由が、皆殺しのせいではなく、曹操が万能の王たろうとしているゆえだ、としているところがおもしろい。以下、本文より引用。p.162、陳宮の台詞。
「違います。平定をする力と、政事をなす力とは、別なものでなければならないのです。万能の王は、時として判断力を失います。万能なるがゆえにです。董卓は、かぎられた地域ではありましたが、いわば万能の王でした。政事は、悲惨をきわめました。政事は、政事にむいた人間がいます。それを下に置いて、王たる者は黙って見ていればいいのです」
 曹操の幕下でも、帝が上に立ち、その下に能臣がいるという図式を重んじる者は多いが、上に立つ王を帝でなくてよいとした陳宮の理想は、独特のものと位置づけられよう。しかし、だからって呂布を担ぐのもどうか。政治と軍事の能力が別というのはいいとして、なにもせず君臨するだけの能力(というか性質)もまた別ものではないかなあ。
 ともかく、前巻の感想に書いたように、「父」というものになんら意義を見いだし得ない呂布は、曹操の殺戮が「父」のためであることにふと思いを致して胸を衝かれたり、また、陳宮が熱く語る理想のために、国を奪ってみようかとも思う。
 しかし、こうも思う。陳宮の夢は陳宮のものだ――この一文が、うまい。

●趙雲
 趙雲が来たよー! やったー! ふつうのパターンより早めでは? 爽やか男のまま成長して戻って来たよー! 爽やかすぎて、アクの強い人々のあいだでは影が薄いが、なんか好きだなあ、この人。名前が好きというのもあるかもしれないが。

●麋竺
 で、陶謙病没、劉備は請われるままに徐州の牧を引き継ぐ。ただ仁徳からの行為でなく、その依頼の意味(脆弱な息子たちのかわりに暫く引き受けさせたいと陶謙は考えたとなっている)、政治的に今後対立するのがどのへんで、どう危険かという部分まで考えての選択。
 麋竺が来たりて帝を救うために起てと説き、劉備本気で怒る。無茶言うな。
 ふつうの三国志的な劉備だったら、帝のためと言われれば起とうとするかも。で、まわりがうまいこと彼の「仁」とか「義」とかを傷つけないよう采配するのだなあ。
 麋竺が語る、形式(象徴?)としての頂点である帝、という概念は劉備の理想と近いらしいが、それって天皇制なのでは? 現代日本人であるわたしには非常に理解しやすい話だが、当時の中国にこうした概念があったのだろうか。
 うーん。
 麋夫人となる麋燐との出会いシーンもあり。

●孫策
 袁術のもとに膝を屈していたが、劉ヨウ(左側はどう説明すりゃいいんだ……。右は「系」)を攻める戦のため、父が発見した伝国の玉璽を渡してそのかわりに兵をもらい、サクッと独立。周瑜も来て、劉ヨウとの戦で敗軍のしんがりをつとめた太史慈も配下に入れて、雄飛。

●呂布と劉備
 兵糧攻めで時間をかけて曹操は呂布を攻略。呂布は麾下とともに囲みを抜け、陳宮らとともに劉備のもとへ。
 呂布を受け入れれば戦力が高まる。よって、曹操や袁術と対決せざるを得ない――勝ち目のない戦を避けるため、麋竺は劉備に陶謙の真似をせよという。要するに、徐州を持て余すなら呂布に押しつけてしまえ作戦である。

●孫策
 周瑜の他に張昭もあらわれ、陣容が整ってくる。呉郡攻め。孫権初陣。

●許チョ対典韋
 賊徒になっていた許チョが、頭を殺された仇討ちにやってきて、典韋と一騎討ち。曹操の軍と知っておどろく。曹操もびっくり。さっくりと曹操の配下に入る。

 以下続刊。ていうか、こんなにこまかく書いてると二時間くらいかかっちゃうので、もっとザッと書かねば。しかし、ある程度は書いていかないと、いわゆる『三国志』のパターンのどこを、どうはずし、どのへんが「うまい!」と思えたかが見えてこない。むぅー。

*1真・三國無双 2
 プレイステーション2専用ゲームソフト。アクション。わたしのようにアクション苦手人間でも、万夫不当の猛将気分を満喫できる、ステキなつくり。しかも難易度設定やキャラ選択によっては、ゲーマーさんにも難攻不落のものとなるらしい。
 まじめに、オススメ。殊に、ゲームをする家族と同居している人にオススメ。二人対戦プレイができるソフトは世に多くとも、二人同時協力プレイができるソフトは割合が少ない。家族と喧嘩をせずに、同じ目標に向かって楽しく遊べる、同時協力プレイ。円満一家にぜひ一本。
what i wrote」の「風邪で歯痛で三国志」や「『ヘイ!』」、「都合は悪いがかっこいい」あたりにプレイ感想あり。

読了:2001.11.02 | 公開:2001.11.27 | 修正:2001.12.24


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