世界は王都を中心に、東西南北の四領にわかたれ、それぞれの領王に治められている。ひとつの領は四つの郡に、さらに四つの村に、原則としてわかたれている。
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この物語を書くまで、「異世界ファンタジー」と呼ばれながら、当人は「異世界」の話を書いているつもりはなかった。つまり、地球上のいつか、どこかで起きていたとしてもおかしくないような、そういう神話や伝説を描いている気分で書いていた。
これははじめから「異世界」のつもりで取り組み、どうせ創るのであれば、人為的な、いかにも「あらかじめ構想があって創りましたよ」という世界にするのもいいかなと思って、こういう構造を考えた。
幾何学的に構築されたその図面通りにものごとが進めば苦労はしないわけで、そのあたりから、崩れゆく世界という図式もできてきたのではなかったかと思う。
世界の外から眺める〈銀の声持つ人〉は、いわば四次元の住人のようなもので、時間の流れも我々三次元の人間から見る「縦・横・高さ」のように容易に観測し得るのではないか。それで、いじってみたけどうまくいかないので、諦めて放り投げた……とまあ、乱暴に説明するとそんな感じ。
わたしがSF畑の人間だったら、ここを放棄されたネットワーク世界と設定したと思う。竜がエネルギーの流れで、〈銀の声持つ人〉が管理者権限のあるAI、そのネットワークを構築した人類(あるいはそれに類する者)は既に滅亡し、遺されたAIがふたたび人類の世界をネットワーク上に疑似的に構築しようとして失敗したのがこの世界……と、こんな感じに。
余談になるが、四つの色と方角に関する象徴表現には、妙ないきさつがある。わたしがパソコン通信(そういう時代だったのだ)でアクティブに活動していたとき、見知らぬ人の質問に答えていたところ、その人から電子メールが届き、曰く「色が象徴するものについて調べてください」。少し悩んだが、興味のある題材だったのでまあいいかと思い、二度はありませんよと添え書きした結果をメールした……それが、この四領の四色相応の元ネタになっている。
後日その人から返信があり、教授(大学生だったようだ)にわたしが調べたものを提出したら、これはお前(その人)が偉いのではない、調べてくれた人が偉いのだ、と叱られたそうだ。そりゃそうだろうけど……言われてはじめて気がついた! みたいな無邪気さに、かなり複雑な心境になったのを覚えている。
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壮麗な王城の周囲にひろがる巨大な都市。世界の中心。現王は病に伏しており、政治上の実権は諸侯が握っている。世継ぎの王太子
ラグソルは、文武に優れた王者の器と評判が高い。
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王という存在は、当初この世界を想像した〈銀の声持つ人〉にとっては、単なる歪みの観測・修正係に過ぎなかったが、人の目には最高権力者と映り、やがて玉座の意味もとり違えられ、権力闘争の舞台になっていったらしい。
その流れも〈銀の声持つ人〉には、あらかじめ見えてはいたため、地上の〈玉座〉に対応するかたちで、世界再生のための場所も用意されたのだろう。
本来、ここに置かれているべき〈真実の言葉〉は『集合(アヌーン)』。すべての〈真実の言葉〉を結び合わせ、世界を安定させる役割をもっていたが、王位継承騒動のため持ち出され、南方へ移動した。そのために力が歪んで〈悪夢の王〉が生じた。〈悪夢の王〉は、集めるべきものがなにかを知らぬままに、ただ「呼び集める」ことに特化した存在として発生することになる。
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魔物の猛攻を支えきれず、滅亡。最後の領王はヴァーラント。その娘、
エスタシア姫のみが王都に逃れて生き延びた。気候は寒冷で、険しい山脈がある。
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遺跡に置かれていた〈真実の言葉〉は、『忘却(オーン)』。砦の長が守っていた。
黒は夜の色で、死、あるいは眠りに近い。ここは〈本〉が生まれる場所ではあるが、ごく特別な〈本〉を除けば、書き記されるということはすでに起きてしまった、終わってしまった事象ということ。それは滅びの相へと移行してしまったもので、やがて地上に生きる者たちからは忘れ去られることになるだろう……という設定だったはず。
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現在、魔物の攻勢にさらされている。領王は
ソグヤム。
ジェンと
ウルバンは月白領の東の果てにある村の出身。平たんな草原地帯が多く、乾燥した気候。
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遺跡にあった〈真実の言葉〉は、『再生(エージン)』。
白は夜明けの色であり、夜を祓って朝が訪れる、すなわち再生の色でもある。そのため、夜明けを象徴する東と結びついている。
ラスト・シーンで東の涯ての草原から再生が始まるのも、ここが再生の言葉と深く結びついているから。上空を飛ぶ竜のイメージが白であるのも、忘却と死をさしていた黒竜が、再生を祈念する白竜に生まれ変わったことを意味する。
余談だが、エスカフローネ関係の知り合いは、わたしが「白い竜が」といえば当然くだんのアニメーション作品からの連想だと思われるだろうが、この件に関してはそれは違う。最初に「三部作で」と依頼を受けた時点で、既に赤→黒→白と構想してあったので、むしろエスカを見たときに「わあ、白い竜やられた〜」だったのだ……。
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四領のうちでも特殊な風習が多い場所。領王はシリム。剣術が盛んで、高名な剣士のほとんどはここの出身。温暖・湿潤な気候で、巨木に依存した独特の文化を持つ。
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王都の項に書いたように、ここに長いあいだ『集合』があったせいで、なんだか変なことになっちゃったよ、という地域。緑は生命の盛んなことを意味し、本来ここにあった言葉は『知識』、この世界における「存在のもっとも確たる姿」をあらわす。
その『知識』は、イーファルが早めに確保してしまったので、ますますあやしい文化風習が……という設定だったのだが、紙数に余裕がなくて説明しきれなかった。スミマセン。
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既に滅びて久しい領で、ほとんど無人。領王も不在。岩肌が露出した荒野がつづく、不毛の地。
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名前は「曙」だが、実は落日をさし、迫りくる夜へ向かう夕日を象徴する「赤」の土地。ここにあった〈真実の言葉〉は、『眠り(ウヌン)』……だったと思う。
終末を連想させる夕日ではなく、敢えて朝日に通じる曙紅と名づけられたのは、夜の向こうには再生が待つという意味だったのか、それともただ滅びを避けて呼んだだけだったのか……まあ、どちらもあり、という気がする。
ここにある遺跡は、〈本〉が生まれる場所よりさらに世界の外側に近い。この世のことわりを踏み外しかけた者が、「外側」からの視点を得るために必要な場所だろう。王都の玉座が王のためのものであるように、これは竜になりかけた竜使が世界に別れを告げるための装置と言っていい。
おそらく、当初は〈銀の声持つ人〉が世界を見渡すために使っていたのだろうが。
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