what i read: ダイスは5


*Cover* 書名ダイスは5
著者松井千尋 Chihiro Matsui
発行所集英社(集英社コバルト文庫)
発行日2001.04.10
ISBN4086148447

『ハーツ』(*1)や『犬が来ました』(*2)(……って略するといったいどんな話かという感じだが、まさしく「犬が来ました」ではあるわけで、だから問題ないかといえばそうでもないという、複雑なものを感じる)の作者の既刊三冊中最後の一冊。刊行順でいえばデビュー後二冊めにあたる、初長編ということになる(はず)。
『周囲にあなたの味方はいません』
 机のなかに入っていた手紙の一行目の文字を見て、尚美は凍りついた。彼女は今、クラスの子たちからシカトされていた。なにが原因なのかわからない。誰が主導しているかは見当がつく。それでも、親友と信じていた相手にまで視線を逸らされ、悪意のこもった笑い声を聞かされるのは辛かった。
『そんなあなたには、このゲームに参加するだけの資格があります』
 手紙に導かれるまま赴いた場所には、ゲームのルールを記したファイルが置かれていた。参加者は六名。住所氏名はわからない。通っている高校とクラス名、最寄り駅、所属するクラブ、そして顔写真と番号だけが記されたプロファイル。サイコロをふって、その週の被害者と加害者を決める。ふたりもまたそれぞれサイコロを振って、攻撃方法と防御方法を決める。決めたらそれを進行役に宣告する。互いは互いの選択した方法を知らないが、ふたり以外の参加者四名は、進行役からその内容を知らされる。嘘をついても協力しても自由。行動を実行にうつすのは土曜日一日のみ。加害者が宣言を実行すれば加害者の勝ち、被害者が防衛しきれば被害者の勝ち。勝者がまたサイコロを振って、次の被害者と加害者を決める。
 あやしげなゲームだったが、それでも尚美は参加すると決めた。無意味な、反撃のしようがないクラスでの状況と違って、このゲームに「参加する」ことは自分で決めたことだ。加害者と被害者の関係はスッキリとしていて、曖昧なところがない。だから。
 ファイルを取りに行った場所で出会った相手は三番と四番、一方はお坊っちゃま学校のいかにも秀才風、もう一方は肩で風を切って歩きそうな強面だった。尚美は五番。ほかの三人は姿をあらわさない。
 最初の週の加害者に選ばれたのは一番、被害者に選ばれたのは五番の尚美だった――。
 キャラがいい。センスがいい。構成はちょっと弱いかなあ……でもこれが初長編なのだとしたら、じゅうぶん及第点ではなかろうかと。

 とにかくこう、文章がいい。情景を、ものごとの流れを文章に落としこむ、その表現のしかた、選択した切り取りかた、見せかたがいい。つまりこれが「センスがいい」という評価につながるわけだが、著者独特の味わいがあるので、なにを書いても「ああ、この作家じゃなきゃこうは書かないだろうな」みたいな文章になるわけで。
 これはなかなかの強みなのでは。
 もう一方の、キャラクターがいいという方も説明しておくと、どのキャラも一面的でない。あ、と思わされるような別の顔を、かならず隠し持っているから、のっぺりした記号になっていない。ことに、主役級のふたりの芯の強さ、自分というものの持ちかたは、読者につよい共感を与えると思う。

 この作家さんには順調に育ってほしいなあ。願わくば、もうちょっとわたしの個人的なツボであるファンタジー風味のものも書いてほしい(……えらい個人的な願望や)。

 難点を挙げるとすれば、ある状況に置かれたキャラクター同士のからみを描くのはもう絶妙にうまいのだが、その状況を現出させるべき話の流れが、ちょっと弱いということか。つまり、設定の一部に説得力がない。三作読んで、どれもわりとそういう傾向があったような気がする。
『ダイスは5』では込み入った因縁があるキャラがいる反面、残りは行き当りばったりに集められているわけだが、その行き当たりばったり組のうち、ヒロイン以外を使いきれていない。ちょっと、もったいないというか、バランスが悪く感じられた。
 デビュー作にあたる『犬が来ました』は、もっとも突拍子のない設定だけに、却ってそこのところが目立たずに済んでいたのではないだろうか。流暢な日本語を喋って二足歩行する犬が、れっきとした英国貴族の学者先生として訪問してきました――これだけ基本が突拍子もなければ、他のことはわりと霞む。連作ではあるが、短編だし。
『ハーツ』の方も、ストーリーの進行自体に文句はないし、心臓病云々もまあいいとして、ヒロインが※※※れというのは説得力に欠けるなあ、と思った。相手の正体を看破したと同時にそれっていうのは、ちょっと。べつにそうでなくてもよかったのではないか、と感じられる部分なので。……えー、読み終えて一ヶ月たってもまだ「あれはちょっとなあ」と思っているくらいだから、けっこう強く印象に残っているなあ。
 ……あれこれ考えつつ『ハーツ』の感想を読み返してみると、やっぱり書いてるなあ。登場人物の心情に緻密に寄り添って内面の変化を描ききる。しかし、外側はけっこうすっとばしている。要するに、著者がどのあたりに力点を置いているか、なにが書きたいかは明確であり、いっそ清々しいほどである。現在無視しているあたりがもうすこし補強されれば、もっと広い層に読まれる内容になるのではないかと感じるが、必ずしもそうとも言えず、えー、まあよくわかりません(弱気)。

 ともあれ、今後の作品に大期待。やあ、若い人はいいですな、これから成長しそうだあ、というワクワク感があって。げほげほ。あ、持病の風邪が。どっちかというと咳より鼻づまりで難儀しているのだが、擬音にすると美しくないゆえ、咳にて代用。げほげほげほ。


*1ハーツ ひとつだけうそがある
 心臓病で余命いくばくもない親戚の女の子のために、弟の身代わりをやってくれないか。もちろん、これはビジネスだ。金は払う――頼まれて転校した先で、顔を合わせるなり猛烈に嫌われてしまった!?
 →感想
*2犬が来ました 〜ウェルカム・ミスター・エカリタン
 英国へ留学中の長男の親友が、我が家にやって来る。どうやら気難しい英国貴族らしい。しかし、あらわれたのは、流暢な日本語を喋る犬だった。
 →感想

読了:2001.11.06 | 公開:2001.11.11 | 修正:2001.12.24


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