『ハーツ ひとつだけ嘘がある』(
*1)がおもしろかったので、同じ著者の本を探して購入。現時点では、この二冊に加えて『ダイスは5』(
*2)という本が上梓されているらしい。
圭吾は三人兄弟の末っ子である。頭脳明晰唯我独尊系の長男と、自分がおもしろいと思ったことなら全力でやるという自由気ままな次男とともに育ったせいか、ちょっと気弱で、言いたいことをうまく言えない性格だ。
そんな彼のもとに、英国へ留学中の長男から手紙が届いた。彼の親友で英国貴族のサー・ウォルター・エカリタン氏が日本へ行くというので、ちょうど夏休みだろうから、彼の逗留の世話、道案内等つとめるようにと問答無用の指示である。サー・エカリタンは日本語が流暢なので英語が喋れないということは心配しなくていい、隣家に住んでいる幼馴染のいずみにも手伝わせるように、自分が勉強の面倒をみてやった恩義を思いださせればイヤとは言えまい。以上。
しかたなくエカリタン氏を迎える準備をした圭吾といずみだが、到着した本人を見て驚愕した。
なんと、サー・エカリタンなる人物は……いや、人物と言っていいのかどうか、彼は二足歩行して完璧な日本語を喋る、しかし、犬だったのだ!
ハートフル・ドメスティック・コメディ。ちょっとファンタジー。
短編三本立てで、表題作のウェルカム・ミスター・エカリタンはコバルトノベル大賞の読者賞を受賞したらしい。これが読者賞ということは、大賞だか佳作だかは別に出ているということなのだろうか。
- ●「ウェルカム・ミスター・エカリタン」
- 上述の通りの導入部で、受賞作。素直になれない高飛車なサー・エカリタン(犬の姿をしているが、もともと人間だと言い張り、犬扱いをされると怒る)と、弱気で押し流されやすい圭吾のシュールな共同生活を淡々と描く。なかなかいい感じ。
- ●「カラコロ」
- 実は圭吾に恋情を抱いているのだが、ちーっとも気がついてもらえなくてジタバタしている、元気なくせにそこのところだけ押しが弱いいずみが、圭吾の兄でお気楽極楽キャラの眞吾に「圭吾と三人でスキー場のペンションでバイトをしよう」と誘われ、すっかりその気になってでかけてみたら、お目当ての圭吾は補講のため参加とりやめ……踏んだり蹴ったり。しかしそのバイト先のペンションにはふしぎな犬がいて、しかもあの眞吾が表情を変えるような相手がいて。
いずみの「元気なのに肝心なところで押しが弱い」あたりの微妙さがうまい。愛らしいのぅ。
- ●「緑の犬」
- ドルーはエカリタン領に花嫁として到着した……はずだったのだが、父が強引にまとめた結婚だけあって、エカリタン家の当主でドルーの結婚相手であるアルフレッドはもちろん、その弟のウィリアムも、一家全員が結婚に反対だというのだ。それでもドルーは前向きに考えた。アルフレッド様は恥ずかしがり屋さんなのだ、きっと。しかしウィリアムはそれを笑い飛ばした。エカリタン家には呪いがかけられていて、嫡男は犬に変身してしまうのだ。だからアルフレッドは長いあいだ塔に閉じ込められて暮らしていた。たしかに恥ずかしがり屋かもしれないな――。
こーれーはー。かなりいい。最初の二本もキュートな話だったが、三本めがやっぱりいちばん好きだなあ。というのはたぶん、わたしの趣味的にこれがいちばんツボをついてきてフィットするということだろう。
呪われた一族! とか、望まれぬ花嫁! とか。しかし、それでも尚、さわやかなコメディでもあるあたり、うまいなあ。
ドルーの悲壮なまでに前向きな解釈――しかしそれは現実を無視しているわけではない。実はけっこうシビアに状況を認識してはいるのだ――に、力づけられる一本。
というわけで、総合評価はこれオススメ。『ハーツ』もよかったが、ふしぎなことが起きる話が好きなわたしとしては、これを読んでみてよかったー! というところである。まさかこんなにツボをつかれるとは思わなかった。
- *1『ハーツ ひとつだけ嘘がある』
- 同じ著者による最新刊。心臓病で余命幾許もない少女に、少しのあいだだけ、幼馴染の「ふり」をして接してくれないかという依頼に応え、同じ高校に転校してみれば――。
→感想
- *2『ダイスは5』
- 同じ著者の二作め。学園スリラー。この感想文を書いた時点ではまだ読んでいなかったが、その後、ぶじに入手して読むことができた。おもしろかった。近々そちらの感想にもリンク予定。今は空リンク(すみません)。
→感想
読了:2001.10.28 | 公開:2001.11.01 | 修正:2001.12.21