what i read: バベル消滅


*Cover* 書名バベル消滅
著者飛鳥部勝則 Katsunori Asukabe
発行所角川書店(角川文庫)
発行日2001.08.25(角川書店/1999.08)
ISBN4043586019

殉教カテリナ車輪』がけっこうおもしろかったので、この人の本ほかにないのと配偶者に訊いたところ(推理小説は彼の趣味である)、もう一冊あるよと言われたので本の部屋から掘り出してきた。
 風見国彦は、小さな島の版画館の警備員だった。さしたる名画もない(と彼には思われる)その版画館には、ひとりの常連がいた。学校が放課になってから閉館まで、毎日のように訪れて、ひとつの版画を見つづけるセーラー服の少女。彼女が見つづけているのは、アントニスゾーンの『バベル崩壊』だった。
 つい声をかけたところから、その少女と国彦の交流がはじまった。会話にならない会話、わずかな応答。
 その小さな島で、やがて「バベルの塔」をキーにした殺人が次々と起きることになるとは、誰も予想だにしていなかった……。
 孤独な翳のある美少女と鈍感な男の交流が推理以外のドラマのメインの部分にきているという点で、『殉教カテリナ車輪』を思いだした。同じテーマの変奏曲だなあ、と思ったが、推理を除いたその部分では、『殉教―』より本作の方が爽やかで、いい感じ。
 ことに、国彦と美少女・志乃がようやくきちんと心をかよわせたシーンは、実によかった。国彦っていい人だよなあ、と思えた。このへんの台詞とか。p.227より引用。
「冷たいようだが、俺は力になれん。今、君がどんな状況にいようと、どんなひどい目に遭っていようと、君を救うことはできない。俺には何もできない。話を聞いてやることくらいが関の山だ。それでいいなら話してほしい。いくらでも聞いてやる。話せば気の済むこともある。俺は何でも聞いてやる。だが、守ることはできない。結局君を守るのは君自身だけだ。慰めはいわない。強くなる。自分自身を強くする。明日の君は今より少し強い。一年後の君はもっと強い。本当にそうなるかはわからない。だが、それを信じて生きる。無理をすることもない。嫌なものは断れ。抵抗しろ。不可能なら逃げちまえ(後略)」
 これを言えるって、すごい。
 人間って「ええかっこ」したい欲求があるから、つい、困ったら相談してよ、と言いたくなる。力になるよ、と言いたくなる。相手がたいせつな人なら、なおさらだ。それでもやはり、人が責任を持てるのは自分の人生だけで、助力できる範囲には限度がある。
 だから、たいせつな人を守るには、その人に、自分で自分を守る力をつけさせる必要があるのだ――ということが、ここで言われているのではないかと思う。
 無責任に守ってあげるより、自分で自分を守れるようになれと励ます方が、ずっと誠実だ。もっとも、先方は無責任でもなんでも「守ってあげる」という言葉を待っている場合もあるのだろうが。

 推理の面でも、偶然・なりゆきに頼った犯罪という点と、叙述トリックの仕掛けかたで『殉教―』を再生産していると感じられた。
 要するに、先に『殉教―』を読んでしまったので、新鮮味がどうもたりないという読後感であった。読む順番が違えば、『殉教―』の方にそれを感じたのかもしれない。
 ただ、読み順とは関係なく、『バベル―』は、最後の種明かし、説明の部分がちょっと長すぎる。ひょっとすると、推理小説ファンにとっては、これくらい丁寧に各記述の意図を説明する方が当たり前なのかもしれないが、わたしにはちょっと煩瑣に感じられた。ここはひっかけで、ここはこう見せようとしていて、と一々注釈をつけてしまうと、読者が考える隙がなくなってしまうと思うのだが……。
 それとも、隙を残しておくと、問い合わせだの間違い指摘(と思いこんでいる)の手紙だのが届いて鬱陶しかったりするのだろうか?

 全体としては、よくも悪くも同じ作家の作品だなあ、というのが正直な感想である。
 読者がひとつの作品を気に入って、その作家の名を覚えてまた次の本も読むというのは、やはり、その作家の作風、作品が内在するなんらかのテーマやモチーフを気に入ったからなのだろうから、似た作品がどんどん出てくること自体はそんなに間違いではないと思うのだが、わたしの基準では、ちょっと要素が似通い過ぎかなあ。
 推理小説のジャンル・ファンでないからそう思うという部分もあるのかもしれない。推理小説を読むにあたってのお約束ごとは、まるでわからないし。

 あともうひとつ、各作品にかならず添えられている絵の存在について。
 著者本人の言葉によれば、絵と小説とでは絵が先に生まれ、その絵を見ながら、なぜこんな絵を描いたのだろうと考えを深めていくと、小説ができるらしい。
 なるほどなあと思う反面、やっぱり、絵はない方がいいなあ、とも思う。単に、こういう画風があまり好みでないからかなあ。
 絵だけで言えば、『殉教』の方が好きかなあ。『バベル消滅』は、申しわけないが、どこを見ればよいかわからない絵という感じがした。それが狙いなのかもしれないが。

 解説は井上夢人氏。著者自身のあとがきで「バベル」について詳しい解説があるので、解説になにを書くかは難しいところかもしれない。
 小説もそうだが、あとがきまで、つっこむ隙のない作家なのかも。

読了:2001.10.23 | 公開:2001.10.30 | 修正:2001.12.21


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