喧嘩が強くてスリングの的当てがうまいだけの不良少年リオは、ある日、見知らぬ女性にとっつかまえられ、わけもわからぬうちにシップに乗せられた。
重素の海に覆われた世界。人が住む領域は、点在するわずかな島々だけ――そんな「多島海」の生活を支えるのは、重素の海からあらわれて空中を漂う「浮獣」たちだった。肉は食用に、内蔵からは燃料がとれ、またその外殻はさまざまな道具の加工材料となる。
そして、その「浮獣」たちを狩るのが、「翔窩(ショーカ)」と呼ばれる職業に携わる人々であった。さまざまに工夫をこらし、それぞれに特色のある機体をあやつる、空の狩人。
リオは、その「翔窩」の見習いになる道を示されたのだ。学校もさぼり倒し、進路も決めない彼を、ショーカギルドが引き受けることに(本人も知らぬうちに)なってしまっていたのだ。彼をシップに乗せた女性は腕利きのショーカのひとり、ジェンカ。彼女はギルドからシップを借りるのと引き換えに、ひよっこをひとり、一人前に育てる契約を結んだのだ。
「私が一番望むのは、君が掘り出し物で、とんでもない名手に化けてくれることよ」
無目的に街をふらついていた不良少年が、無理やりピックアップされてシップに乗せられ、いきなり狙撃手初体験。やる気が出て、上を目指すようになって、おのれの限界を知って、でもまた前向きになって――と、申し分のない成長物語。
冒険あり、喧嘩あり、空中戦あり、恋もあり、あれあり、これあり、なんでもありな感じで非常にサービス精神旺盛な一冊。堪能。
同じ著者の作品を何冊か読んだが、共通して感じるのは、最後の方がわたしの好みより駆け足かなぁ、ということ。後半、いや後ろ三分の一くらいにさしかかると、だいたいいつも、これはもう思い切ってもう一冊とか二冊とか使ってシリーズ化して壮大なスケールを思う存分味わいたいのだが、という感覚を抱いてしまうのだ。
もっとも、『導きの星』(*1)はシリーズ化してるし壮大だし、なわけだが、それでもやっぱり毎回「なんとなく後半が駆け足」な気がするので、著者の構成の癖が、後半畳み掛けるような展開に持っていくバランスになんているのかな、とも思う。
逆にいうと、毎回、視野が広い。作品世界が狭い構造におさまらず、実はこういう大仕掛けで動いているんだよ、というマクロの機構をあらわしてくれる。そこが「ああ、SFだなぁ」と感動させてくれるポイントでもあるのだ。広がってきて、奥行きが見えて、ああ、なるほど! と思う――で、そのあとが、速い。あれよあれよ、で終わってしまう。
だから、そこをじっくりたっぷりゆっくり、じわーっと楽しませてほしいなぁ、と思ってしまうのだが。贅沢かな。
別のいいかたをすると、終盤の急展開のあたりでは、作者の「こういう話なんだ」という説明が突っ走っている感じがするのだ。それで、キャラクターがどうも駒のように感じられてしまって、言動の背景にあるべきかれらの感情や衝動、思考などが、心の底から納得できる描写や展開をもってではなく、「説明」で表現されてしまっているように受け取れてしまうのだ。もったいない。もっと、みっちり書いてくれないかなぁ。
という感想をもってしまうのは、わたしが心情描写を読むのが好きな女性読者だからなのかもしれない。ソノラマ文庫が本来ターゲットとする読者層は、まったく問題に感じずに読むのかも。逆に心情描写で終盤のテンポを落とすと、鬱陶しく感じられてしまう危惧があるのかも。
ともあれ、一読巻を置くあたわざるおもしろさ、最後まで一気に読み切ってしまった。
……メルケンデンさまが渋くてステキ。
読了:2004.03.06 | 公開:2004.04.06 | 修正:--