異星の文化を気長に導く〈外文明観察官〉のシリーズ(
*1)第二作。
※シリーズもののため、あらすじは、既刊のネタバレを含みます※
リスに似た知的種族、黒毛のスワリスと、かれらよりひとまわり大きい白毛のヒキュリジ。人類はかれらのような生物を〈地球外知性〉(ETI)と呼んでいた。そして〈外文明監察官〉を置き、かれらの文明の進化を見守りつつ、望ましい方向へ進むよう、穏やかにコントロールしていた。保護・育成・不接触。それが、監察官の守るべき節度であった。
惑星オセアノの監察官である辻本司は、三人の目的人格(パーパソイド)――それぞれの目的に特化された人工知性――コレクタ、バーニー、アルミティを助手として、かれらの文明が勃興した頃から、見守りつづけてきた。
いささかスマートとは言いかねる司の仕事ぶりは、しかし、人類を統括する統一国連最高議会から注目を受けていた。正確には彼自身でなく、オセアノに星間商人のスター・ストライダーが出現したことの経緯が、かれらの注目を集めたのだ。
暴走しがちな司の任務を、通常の基準を緩め、敢えて迷走させるように――統連が司の上司に指示したことを、司自身は知らない。そして知らぬままに、彼はパーパソイドたちと、またしてもオセアノの文明に介入しようとしていた。
司くんの、明日はどっちだ。いやむしろ、オセアノの未来はどっちだ、が正解なのか。
前作を読んだときから、
「そんな何百年とかかる任務を請け負っても、途中で中央の政府の政体が変わったり、方針が大転換したりしないのだろうか。装備だって、凄い勢いで時代遅れになってしまうのでは?」
ということを考えていたのだが、二巻めの冒頭で、ようやくその疑問点について芯から納得できた気がする。
既に完成され、進取の気風はうすれ、新しいものが生まれない世界。平穏な、しかし黄昏の光に満ちた時間の流れ。
なるほど、こういう状況が永くつづいているのであれば、〈外文明観察官〉のような職務もなりたつだろう。
今回の文明テーマは「宗教の勃興」と「星の運動」。
どちらも短く凝縮されているので、ひとつずつのテーマとして見ると、ちょっと食い足りないかなあ、という気がしないでもない。
ただ、作品のバランスとしては、これで正解のような気もする。
オセアノの文明が地球と近いラインを辿っているので、読者にしてみれば、ある種の既視感を覚えながらの読書体験になるわけで、どれだけその予測に沿うか、あるいははずれるか、というあたりも興味の向かうところではあるのだが、それ以上に、個性的なスワリス/ヒキュリジたちのキャラクターがどういう運命を辿るのか、が気になってくる。
とくに、宗教に権力を根こそぎ乗っとられたかたちの皇帝であり、「遠筒姫」の異名を持つクラリコのキャラクターは、最高。「いったん自分が興味あるものごとに集中しはじめたら他はまったく見えなくなる」という、いかにもそういう人らしい行動が、過度に戯画化されることなく、ちょうどいい感じで描写されている。
かなり後ろの方なので気が引けるのだが、この場面がとても好きなので、敢えて引用させてもらう。
「彼の理論なら、新しい法則なんか何もいらないもの。今までの常識に全部収まっちゃうわ。そういう理論を考え出した彼はすごいと思う。――でも、そうやって造り出された宇宙(ナハイ)は……」
クラリコは、手の下の宇宙図を、やにわにくしゃくしゃと丸めて、観天台の外に放り投げた。
「全然美しくないのよ!」(p.243)
遠筒姫、万歳!
ところで、ハードSF系の作品を読んでいると、どこかオポティミスティックな雰囲気を感じることが多い。単にわたしの本選びがそうなのかもしれないが、ものごとが奇麗に割り切れている感じ、未来へと向かう視線、そして進歩への信頼感――そうした要素が揃っているとき、わたしという読者にとって、それか「オポティミスティック」ととらえられるのかもしれない。
先に引用したクラリコ姫の台詞からも、そんな雰囲気を感じる。
美しくないといって憤慨する彼女は、宇宙は美しく――整合性がある、統一された法則にのっとって――あるべきだ、と信じている。望んでいる。
そういった指向性が、物語にある種の開かれた感じ、すっきりとした明るさを与えているのではないかと、そんなことをぼんやり考えている。
- *1 シリーズ
- 既刊は『導きの星 1 目覚めの大地』。読了済みだが、現時点では感想文をアップロードしていない。と思ったら、【ダンディ・ニュース】の献本御礼記事に、当該書籍への言及を発見。ただし、ダンディ・ニュースなので文体はアレだ。
→感想 @Dandy News
読了:2002.08.12 | 公開:2002.09.15 | 修正:-