what i read: 天空の姉妹と雲の騎士


*Cover* 書名天空の姉妹と雲の騎士
著者ゆうきりん Rin Yuuki
発行所エンターブレイン(ファミ通文庫)
発行日2002.07.31
ISBN4-7577-0923-4

 いただきもの。ゆうきりんさま、ありがとうございます。
 それは飛行機による交通が発達した世界。主人公は農薬散布の飛行機乗り、誇り高き天空の騎士だった父が操縦すると、
「サファイアが空を切り裂くようだった」
 と伝えられる青い飛行機を駆る少年、コウだ。
 父の面影を慕うコウの目の前に、ある日、赤い貨物機が姿をあらわした。おもしろ半分にそれを撃ち落とそうとしている共和国軍の偵察機に激昂したコウは、果敢にも(あるいは無謀にも)、武装のない身で偵察機と貨物機のあいだに割って入った。農薬をスモークにして、しばらくは時間を稼いだものの、コウの飛行機はあえなく操縦不能に陥ってしまった。
 助けるつもりが貨物機に助けられ、目ざめたコウが見たものは、美貌の四姉妹だった。コウが知る技術では考えられないほどの高空を、ほとんど給油もせずに悠然と飛ぶ赤い機体――《ノルガード》は、この世に一機しかない、超高性能の飛行機だったのだ。
 降りてからは、一切、《ノルガード》について語らないこと。姉妹を率いる長女アルに誓いを立てさせられたコウは、天才的な射撃の腕をもつ男まさりのジル、調理場を牛耳る三女のファ、気圧の低い高地でしか生きられない「天使」病にかかる情報処理の達人クーの四人とともに、《ノルガード》での生活を満喫するが――。
 飛行機だ、飛行機!
 漢字で「浪漫」と書きたくなるような種類のロマンに満ちた、青い空。存在それ自体が至宝と呼ぶにふさわしい飛行機と、そこで暮らす姉妹。彼女たちを助けようと飛びこんだ無謀な少年の父は、今は滅びた王国の《天空の騎士》――すなわち、優秀なパイロットであり、下級貴族でもあった。
 失われた王国、勝者に書き換えられた歴史の狭間に消えた人々、大国の奥底で蠢く策謀、それに翻弄される人々の運命。
 というところで、話が終わってない!
 一応、ひとつの物語の流れは終わって、一段落はついているのだが、大きなうねりの方は宙に投げられたままである。
 続刊が刊行されることを期待したい。

 ゆうきりん氏はわりと「器用」なタイプの作家なのではないかと思う。
 前にも似たような感想を書いた記憶があるが、物語に入れこむ要素を決めて、それを組み合わせ、かっちりと物語を組んでいく力がある(ように見える)。
 読者の側の「こういう感じにおもしろくなりそうだ」という期待を裏切らないだけの物語を、さまざまなジャンルの作品で、きちんと出してくる。かならず、一定のクオリティをキープしていることへは、すなおに尊敬の念を感じる。
 今回の『天空の姉妹と雲の騎士』も、冒頭で感じたワクワク感や、きっとこんな風になるんじゃないかな、という期待をそのままカタチにしたような作品で、ある程度の満足感は得られるのだが、先に書いたように、物語の小さな起承転結はついていても、大枠の方はまだまだ「起」だけで終わっているという感があって、読み終えても消化不足な気分になる。
 と同時に、期待したそのままのカタチから踏み外している部分が少なくて、それは破綻の少なさを意味するのだが、安心感に通ずると同時に、なにか異質なもの、めあたらしいものを求めるタイプの読者には、ものたりないまま終わってしまうのではないだろうか。
 踏み外すのも善し悪しで、個性を出しすぎると読者がついてこられなくなったりするのだが、もう少し、なにか「突き抜けちゃった」ところがあってもいいんじゃないかなあ、という漠然とした感想を、無責任な一読者としては抱いてしまう。
 どこがどう、という明確な欠点があるわけではないので、これはほんとうに、贅沢な感想なのだと思うのだが。

読了:2002.08.09 | 公開:2002.08.21 | 修正:-


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