what i read: 緋色の檻(後編)
〈有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険〉


*Cover* 書名緋色の檻(後編)
〈有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険〉
著者橘香いくの Ikuno Tachibana
発行所集英社(集英社コバルト文庫)
発行日2002.06.10
ISBN4-08-600119-5

 架空の王国・ブローデルをおもに舞台にとった、ラブコメ・ミステリのシリーズ。今回は、フェリックスの出生にまつわるエピソードをメインでとりあげている。前後編二冊にわたる、シリーズ(*1)最長の作品。
※シリーズもののため、あらすじは、既刊のネタバレを含みます※
 フェリックスが忌み嫌う実の父、そして母――遺産相続問題で腹違いの兄のもとを訪れたフェリックスは、姿を消してしまった。あとから追っていったコラリーは、今はエメラインと名乗る怪盗シュシナックと協力しつつ、フェリックスの捜索にあたる。
 しかし、謎は深まるばかりで、フェリックスの行方は杳として知れなかった。つい、身近にいたエメラインに慰めを求めようとしている自分に気づき、コラリーはぎょっとするが――
 個人的には断然フェリックスの方がタイプ(*2)なのだが、コラリーと同じ境遇にいたら、絶対にエメラインによろめくだろうな。と、いうのは、ともかく。

 前後編にわかれてしまったぶん、ミステリの謎解きに、読書のたのしみの焦点が行かなかったような気がする。フェリックスの両親がいかに生き、死んだかということが、その「ミステリ的な」謎解きに深くかかわっているはずなのに、微妙に浮いているような感じもする。
 後編を読むときに、もう前編の話を忘れかけている状態では、このへんの感覚は、「読者側の事情」なのかもしれない。

 フェリックスが両親を許せる、あるいはやはり許せない、とケリをつけるに足る、説得力のあるエピソードがもう少し出てくるのかと、こちらが勝手に期待していた節もある。
 しかし、フェリックスがケリをつけたのは、両親と自分の関係というよりは、むしろ、コラリーと自分の関係だと読むべきなのだろう。

 ラヴ・ロマンスとして読む場合、コラリーとフェリックスが同じ場所と時間を共有していない、いわゆる「すれ違い」系なのだろうと思うのだが、もっと読者をドキドキさせるニアミス的盛り上げがあれば! と、これまた、ないものねだりに走ってしまう。

 謎解きの方は、相変わらず、善人/悪人のすり替えであるとか、背景に沈んでいる人物をうまく利用したりとかで、うまいなあ、と思う。
 問題は、前編の内容を忘れかけた身では、そもそも「なにが謎だったのか」が判然としない記憶の闇のなかに埋没しかけているということか。
 やっぱり前編から通して読み返さないとなあ、と思いつつ本の山を見る。ここでさっと本が出てくるような、整頓された暮らしがしたい。

*1 シリーズ
現時点(2002/08/04)では感想をあげていないが、手に入らなかった一冊を除いて、すべて読んでいる。
薔薇の埋葬
お城には罠がある!
カブラルの呪われた秘宝
王国、売ります!
翡翠の眼
奈落の女神
ふたりで泥棒を
革命はお茶会のあとで
ローランスは猫日和』←未読
楡屋敷の怪人
黒い塔の花嫁
影の姉妹
踊る王宮の午後
緋色の檻(前編)
*2 筆者は断然フェリックスの方がタイプ
2000年に書いた文章ではあるが、「マイ・ダーリン」ならびに「最近のダーリン表」あたりを参照のこと。

読了:2002.08.04 | 公開:2002.08.21 | 修正:-


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