架空の王国・ブローデルをおもに舞台にとった、ラブコメ・ミステリのシリーズ。今回は、フェリックスの出生にまつわるエピソードをメインでとりあげている。前後編二冊にわたる、シリーズ(
*1)最長の作品。
※シリーズもののため、あらすじは、既刊のネタバレを含みます※
フェリックスが忌み嫌う実の父、そして母――遺産相続問題で腹違いの兄のもとを訪れたフェリックスは、姿を消してしまった。あとから追っていったコラリーは、今はエメラインと名乗る怪盗シュシナックと協力しつつ、フェリックスの捜索にあたる。
しかし、謎は深まるばかりで、フェリックスの行方は杳として知れなかった。つい、身近にいたエメラインに慰めを求めようとしている自分に気づき、コラリーはぎょっとするが――
個人的には断然フェリックスの方がタイプ(
*2)なのだが、コラリーと同じ境遇にいたら、絶対にエメラインによろめくだろうな。と、いうのは、ともかく。
前後編にわかれてしまったぶん、ミステリの謎解きに、読書のたのしみの焦点が行かなかったような気がする。フェリックスの両親がいかに生き、死んだかということが、その「ミステリ的な」謎解きに深くかかわっているはずなのに、微妙に浮いているような感じもする。
後編を読むときに、もう前編の話を忘れかけている状態では、このへんの感覚は、「読者側の事情」なのかもしれない。
フェリックスが両親を許せる、あるいはやはり許せない、とケリをつけるに足る、説得力のあるエピソードがもう少し出てくるのかと、こちらが勝手に期待していた節もある。
しかし、フェリックスがケリをつけたのは、両親と自分の関係というよりは、むしろ、コラリーと自分の関係だと読むべきなのだろう。
ラヴ・ロマンスとして読む場合、コラリーとフェリックスが同じ場所と時間を共有していない、いわゆる「すれ違い」系なのだろうと思うのだが、もっと読者をドキドキさせるニアミス的盛り上げがあれば! と、これまた、ないものねだりに走ってしまう。
謎解きの方は、相変わらず、善人/悪人のすり替えであるとか、背景に沈んでいる人物をうまく利用したりとかで、うまいなあ、と思う。
問題は、前編の内容を忘れかけた身では、そもそも「なにが謎だったのか」が判然としない記憶の闇のなかに埋没しかけているということか。
やっぱり前編から通して読み返さないとなあ、と思いつつ本の山を見る。ここでさっと本が出てくるような、整頓された暮らしがしたい。
- *1 シリーズ
- 現時点(2002/08/04)では感想をあげていないが、手に入らなかった一冊を除いて、すべて読んでいる。
『薔薇の埋葬』
『お城には罠がある!』
『カブラルの呪われた秘宝』
『王国、売ります!』
『翡翠の眼』
『奈落の女神』
『ふたりで泥棒を』
『革命はお茶会のあとで』
『ローランスは猫日和』←未読
『楡屋敷の怪人』
『黒い塔の花嫁』
『影の姉妹』
『踊る王宮の午後』
『緋色の檻(前編)』
- *2 筆者は断然フェリックスの方がタイプ
- 2000年に書いた文章ではあるが、「マイ・ダーリン」ならびに「最近のダーリン表」あたりを参照のこと。
読了:2002.08.04 | 公開:2002.08.21 | 修正:-