what i read: レンテンローズ


書名レンテンローズ
著者太田忠司 Tadashi Ohta
発行所富士見書房(富士見ミステリー文庫)
発行日2002.05.30
ISBN4-8291-6160-4

 いただきもの。太田さん、ありがとうございます。連作短編集。というか、中編集?
●「レンテンローズ」(初出「月刊ドラゴンマガジン2001年10月号増刊ファンタジアバトルロイヤル」)
「わたし、香緒里の友だちかな?」
 美咲の言葉に、必死で答えた。友だちだよ、と。
 だが香緒里自身も、疑っていた。自分は人とうわべだけの関係しか築いてきていない。ほんとうに、友だちなのだろうか。
 誰もわたしのことを好きでいてくれないこんな世界なんて、と美咲が校舎の屋上から身を踊らせたとき、香緒里は制止しきれなかった。だが、気を失ってから保健室で目覚めてみれば、美咲はなにごともなかったかのように、そこにいた。
 混乱したまま帰宅しようとした香緒里は、ふと気がついた。見慣れぬ花屋、〈レンテンローズ〉に――
 太田氏の作品で、しかも富士見ミステリー文庫というレーベルから出版されているものだから、当然のようにミステリー。
 友人の自殺というセンセイショナルなシーンからはじまり、それが夢だったと落とされ、そしてまた、と二転三転していく事件のからくりは、きれいにミステリとして解き明かされる。
 しかし、物語の全体を支配するのは、若く、迷いの多い少女の心の動きと、それを包みこむような不思議な存在の気配である。ミステリーの作法を守りつつ、幻想的な雰囲気をかもしだし、最終的にはそこに落とす。それでいて、謎解きに超自然を持ちこむような、アンフェアさはない。
 混乱と不条理に満ちていると同時に、すっきりと理屈をとおした物語。

●「裁く十字架」(書き下ろし)
 達也は鬱々とした気分で公園にいた。もうじき、姉が結婚する――早くに両親を亡くし、支えあって生きてきた姉弟。いや、姉に一方的に面倒をみてもらってきた、と言うべきかもしれない。
 この結婚もまた、伊月は彼女自身のためでなく、達哉のために……? 彼の留学のための費用は、伊月の結婚相手が出してくれることになっていた。
 疑いをおさえきれず、ついに達哉は伊月に疑念をぶつけてしまう。わだかまりの消えないまま迎えた結婚式の日、そして密室と化した教会で起きた惨劇。
 姉の死を受け入れきれずに街を彷徨っていた達哉が辿り着いたのは、いつのまにかあらわれていた不思議な花屋、〈レンテンローズ〉だった。
 今回は、茫洋とした花屋のあるじ・ノブさんにくわえて、チャキチャキっとしたお姉さんのミユキも登場。
「レンテンローズ」同様、こちらもミステリとしての謎解きには超自然をさしはさまず、人の情念の世界にのみ、人ならざる者と思われる不思議な存在が干渉し、物語全体を包む。

 太田作品に共通して言えることだと思うのだが、登場人物は皆まじめで、とかく思いつめてしまいがちである。そこに、綺麗にととのったトリックと解決が組み合わせれば、いかにも理詰めで支配される世界が完成しそうなものである。
 だが、まじめなかれらは、殺人をはじめとする犯罪のトリックを解き明かすことで、それをおかした人の心の闇にふれ、苦しむことになる。
 この『レンテンローズ』におさめられたシリーズでは、そうした「闇」の部分をアカンサスやプリムラが引き受けることで強い毒をみごとに緩和させているように思われる。そしてまた、そうした緩衝材ともいえる存在が必要になってくるのは、物語の主人公となるキャラクターが、皆ティーン・エイジャーであり、切実にかれらを必要としているからではないか、とも感じてしまう。
 基本的な設定は、相互に補いあうかたちで理想的にできあがっているようだ。

 ヴィジュアル系のふたりの活躍シーンが少ないのが少々残念な。次はもうすこし多めに露出してくれると嬉しいなあ、というのがミーハーな感想。

読了:2002.08.13 | 公開:2002.09.15 | 修正:-


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