what i read: ダルマの民俗学 
―陰陽五行から解く―


*Cover* 書名ダルマの民俗学 ―陰陽五行から解く―
著者吉野裕子 Hiroko Yoshino
発行所岩波書店(岩波新書)
発行日1995.02.20
ISBN4004303788

『蛇』(*1)や『天皇の祭り』(*2)の著者によるダルマの本。

 著者は陰陽五行の思想が古代日本でどれほど重要視されていたかを説き、現代につたわるさまざまな年中行事の由来を、陰陽五行思想であざやかに読み解いて見せる。相変わらずその文章は明快で、非常に読みやすく理解しやすい。
 以下、章題とおおまかな内容について挙げておく。
第一章 はじめての陰陽五行 その一
 十干・十二支から五行配当表までが、簡潔にまとめられている。この章の内容を暗記すれば、とりあえず陰陽五行について問われたときになにがしかの答えを口にすることができるだろう。また理解すれば、それにもとづいた自分の考えを語ることもできそうだ。

第二章 はじめての陰陽五行 その二
 その一につづいて、今度は陰陽五行を暦に配当するという概念についての説明である。たとえば、毎夏「土用の丑の日」といってウナギを食べる我々であるが、さてその「土用」とはなんなのか、といったことがこの章を読めばわかるのである。春夏秋冬それぞれに木、火、金、水を配当すると、五行のうちのひとつ「土」が余ってしまう。その土がどこにあるかといえば、立春、立夏、立秋、立冬という季節のかわりめに分散して配当されており、つまり、土用は実は年に四回あることになる。ついでに「なぜ丑の日なのか」は、からからに乾いた未月の土を対応する丑月の湿った土で潤す意で、「月」のかわりに「日」の「丑」をこれにあてたもの。そして「なぜウナギ」かは、丑日の効果を増幅させるため、本来は牛を食すべきところ、これを古来日本人は食べなかったので「ウ」のつくものならということで「ウナギ」に。地方によって「ウメ」「ウリ」などを食する場合もあるが、「ウ」がついていることに変わりはない。……といった按配で、快刀乱麻の解釈ぶりである。

第三章 達磨大師とダルマ
 聖人、宗教家である達磨大師とはどういう人物か。紀元490年頃から中国にあり、大乗禅の普及につとめ、532年に入寂した。その棺を暴いてみると死体がなく、一方の沓だけが残されており、達磨大師は西天に消えたという。
 中国的に解釈すれば、仙人と化したというところだろうか。

第四章 ダルマのある風景
 章題通り、実際にダルマが存在する場所の素描。少林山達磨寺の「福ダルマ」、応頂山勝尾寺の「勝ちダルマ」、選挙事務所の「目なしダルマ」など。ダルマの置かれている文脈からその意味を探る。上掲の三つは、それぞれ「正月のダルマ市」、「時節を問わない名刹のダルマ」、「選挙のダルマ」という我々が目にしやすい光景の代表として挙げられている。

第五章 ダルマはなぜ赤い
 五行でいわゆる「火」の属性を持つ呪物としてのダルマ、という説についての論証と展開。仏教の火天、四神における朱雀などを例にとり、上を向く三角としての「火」、その象徴たるダルマのかたち、色、そして呪物としての性質をあわせて読み解く。

第六章 ダルマさんが転んだ
 起き上がりこぼしとしての機能を持ち合わせているダルマさんだが、その意味とは。既に見た「上昇」という「火」の特質が関連している。

第七章 ダルマさん、にらめっこしましょ
「見る」ということの呪術的意味について。「にらむ」は「視」であり、五行配当表によれば「火」に還元される。正月は「木」の始まりであると同時に「火」の始まりでもあるため、これを力づけるための遊びとして、にらめっこが奨励されたのではないかという説。このほか「視」を強調した正月行事として「にらめ鯛」「目張り寿司」「白馬節会」などが挙げられ、同様に解釈されている。

第八章 ダルマさん笑っちゃだめよ
 今度は同じダルマさんの遊びでも「笑ってはいけない」という禁の方に目を向け、「口」は「金」に配当され、正月の「木」がもっとも恐れる「金」(金剋木とされている)を禁じることでその力を削ぐ意味合いがあるのではないかという説。ダルマの口が鎖されているのもこのためか。また吉野国栖伝承、ホムツワケ伝承なども同様に解釈する。

第九章 ダルマさんの仲間
 正月の遊びや行事を同じように陰陽五行の観点から読み解く。凧(いかのぼり)、羽根突き、熨斗鮑について。
 以上、九章から構成されている。
 たいへんおもしろかったが、ダルマの本というイメージよりは、日本古来から伝わる慣習などを、陰陽五行の観点から読み解けばこのような呪術であったことがわかる、という意味合いの方が強く心に残り、タイトルになっている「ダルマ」自体にあまり強い印象が残らないのが不思議である。
 別段、それを欠点とは思わないが、著者の連想が自由にひろがっていき、あれもこれもと説明していく過程で、「ダルマ」がもつ求心力が薄れてしまったのかもしれない。ともあれ、たいへん興味深く読めた。

*1蛇 ―日本の蛇信仰
 同じ著者による蛇信仰についての詳説。おもしろい。
 →感想
*2天皇の祭り 大嘗祭=天皇即位式の構造
 ほぼ連続して同じ著者の本を二冊読んでいるのは、Amazon.co.jp で「吉野裕子」で検索して同時に注文したため。あとは在庫なしかハード・カバーになってしまうようだ。
 →感想

読了:2001.11.20 | 公開:2001.12.28 | 修正: -


前に読んだ本次に読んだ本
back to: site top | read 2001 | shop | search
... about site | about me | talk with ...
Amazon.co.jp でサーチ◆ 対象: キーワード: