三国志シリーズ……。ていうか、北方三国志がおもしろい、おもしろいと騒いでいたら、曹操が好きならこれも読みたまえと勧められたのでさっそく購入。そして読破。……あらすじは同じなのだが細部は異なり、それぞれの作家の「書きたい」ところ、「思い入れ」があるところ、そして文体や小説として目指す完成形の差が出て、結果的にまったく違う読み味になっているのが興味深い。
本作は、文庫一巻めのあとがきにあるように、著者が「曹操」という人物に焦点をあて、従来「三国志演義」のせいで悪役として描かれてきた彼の人物像を、あらたに(現代的に)描きだした作品である。
……らしいのだが、問題は、わたしはこれを読む前から、既に吉川版三国志を読んだ時点で、
「好きなのは趙雲だけど、誰がいちばんカッコいいかっていったら、やっぱ曹操だよなー。曹操はスゴイよな!」
と思っていたので、そんなに悪役悪役した人だっけ? とおどろいてしまった。なにしろ吉川版曹操の初登場シーンって、……ああ、これ前に書いたかな? もはや読み返していないので、通読して十年ほどたつだろうか、記憶もいいかげん混濁しているだろうから、実際にどういう描写だったのかはわからないが、夜、若き将校である曹操の朱金の鎧にかがり火が照り映えたその立ち姿が、とにかく印象的で。
で、そうした見た目の印象を除けても、かっこよかったのだ。頭いいし。目的意識は明確だし。自分がやりたいことのために、自分ができる限りのことを必ず全力でやり遂げる。実力主義で、人材を集めるのが好き、そして人をうまく使う。これかわたしの曹操像であり、……やっぱりかっこいいよねえ? 悪役ちゃうやん。
むしろ、善玉として描かれている(はずの)劉備は胡散臭すぎるのである、現代日本人から見ると。
というわけで、人間曹操を描く三好版三国志は、非常に読みやすい好著という印象。
かんたんにまとめると、『三国志演義』のオーソドックスなエピソードをほぼ押さえた(と思う。何回も書いているように、わたしの知識は吉川版・人形劇・そして最近の北方版と、強いていえばゲーム二本くらいなので)上で、正史の方にも配慮して、双方のよいところを併せて「歴史小説」化したもの、という位置づけか。
だから、曹操を中心に描いたとはいっても、魏のエピソードばかりでなく、呉・蜀の面々についてもきっちりと書かれている。網羅的な内容になっている反面、ちょっと散漫になってしまったかなあ、という感があるのは否めないが、それでも、現代人が無理なく親しめる、しかし尚オーソドックスさを失っていない、三国志の再話として、大きな価値を持つと思う。
だってこれまた一気にがんがん読んでますよわたし、片手で読むのがキツい文庫647ページ。
第一巻は黄巾の乱から始まって、曹操の「報讐雪恨」あたりまで。曹操視点的にいえば、陳宮が曹操を離れる決意をするまで、という感じだろうか。
あ、北方三国志で「出てない!」とショックを受けていた美女・貂蝉はちゃんと登場。そうそう、こうやって董卓と呂布をたらしこんでくれないと!
曹操陣営では陳宮の従兄弟・鄭欽の皮肉な言動がかなりおもしろいが、これはオリジナルのキャラクターだろうか?
読了:2001.11.20 | 公開:2001.12.14 | 修正:2002.01.09