what i read: 興亡三国志 2


*Cover* 書名興亡三国志 2
著者三好徹 Thoru Miyoshi
発行所集英社(集英社文庫)
発行日2000.01.25(集英社/1997.07)
ISBN408747156X

 三好三国志の第二巻。

 ちなみにこちらの興亡三国志は全五巻。わたしが最近入れあげている北方三国志は全十三巻だが、興亡三国志の一冊の厚みは北方三国志の二冊ぶんほどである。よって、全体の長さはそう変わらないのではないだろうか。
 例によって、ねたばれ気味なので、この本を読む気がないかた/既読のかたのみ以下の感想をお読みいただけるとありがたい。遠からず本書をお読みになるおつもりがおありのかたは、以下の文章をご覧にならない方が望ましい。わたしの説明によらず、小説のなかで、じかにふれてほしい部分だからである。






 今回の白眉は呂布の最後――というより、陳宮と曹操、鄭欽のありようであろう。
 三好版三国志では、陳宮という「曹操を裏切って呂布についた謀臣」の位置づけがかなり重要なものになっている。陳宮はけっして曹操を完全に見限ったのではない、というような書きかたになっているからだ。
 曹操は父を殺されたため、復讐としてその州の牧はもちろん、住民までも、軍勢の前にあらわれた者は皆殺しにし、屍の山を築いた。陳宮はその苛烈な復讐について行けず、意見し、そして裏切った――というのが表向きである。
 しかし、陳宮の心の裡では、彼は未だ曹操を完全に見限りきれてはいないように書かれている。かつて、勘違いから彼を匿ってくれた家族を皆殺しにした曹操、そして今また報讐雪恨の旗印のもと、一州を屍の山と変える曹操。戦闘でも、生き延びられては都合が悪い味方の武将を、うまく消していっているように見える曹操。
 陳宮はそれを厭うと同時に、いやそれ以上に、自分以外の誰もがそこに気づくことを避けようとした。曹操の行為から人心を逸らす意味もこめ、また、曹操の皆殺し作戦を中止させるため、呂布と手を結んだのである。呂布が立ち上がれば、曹操はそれに向かい合わざるを得ない。そこまで読んで、陳宮は反逆した。そういう位置づけなのだ。
 だから、呂布とともに捕えられて後の陳宮は、そんじょそこらの勇士顔負けのかっこよさである。曹操にとって、陳宮はかつての命の恩人である。曹操は陳宮を助けたいと思うが、しかし、陳宮に助かる気はない。曹操のもとを離れたときから、その覚悟ができているからである。いったん裏切った者を受け入れるべきではない。曹操のためにも、自分は死なねばならぬのである。
 曹操がさしのべる赦しを敢然と拒否し、陳宮は頭を高くあげたまま、死んでゆく。己の生きかたに、なにひとつ恥じるところはないという意味である。
 陳宮が存命中は、裏切り者の親戚(しかも口が悪い)として曹操の陣営内で浮き上がっていた鄭欽だが、彼のみが陳宮の内心を知り、今後も曹操のもとに留まりつづけることで、陳宮の志を非常に間接的なかたちで継いでいく。鄭欽は陳宮のように行動する人ではなく、あくまで高みから見下ろし、分析する型の人物ではあるが、彼を置くことで、曹操は今後も陳宮のことを思いだしつづけることになる。

『興亡三国志』の曹操にもっとも大きな影響を与えた人物は、陳宮である、というように読める。

 この巻のほかの見所は、菊池仁氏の解説にもあげられているが、曹操が星空を見上げて詩心を発する場面であろう。情景が見えてくるような描写で、印象に残る。
 全体に、演義の派手なエピソードをとりいれつつ、抑え気味の筆致で書かれているような印象が濃い。それは、言うなれば「嘘くさい」エピソードを、敢えて淡々と書くことでその「嘘くささ」を薄めているわけで、手法としては間違いではないのだが、映像が心にくっきりと残るような描写が少ないことは残念である。
 その反面、「詩人・曹操」を描写するこの星空のシーンには、力がこもっており、見得をきるような派手な場面ではないにもかかわらず、読んだ者の心に残るものになっている。著者が本作を書こうと思いたった理由が曹操の遺した詩にあったということからも、力のいれどころであることがわかるが、それにしても美しく、かつ著者の考える曹操像を端的にあらわす一場面であると思う。

読了:2001.11.22 | 公開:2001.12.16 | 修正:2001.12.31


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