updated: 2011/09/03

漠の西に、巨大な帝国があった。

祖と呼ばれる初代皇帝とその血族は、遠方にあっても互いに意思を通じあわせることができる力をそなえていた。神の恩寵——偽りを許さず、真実のみを伝える力。即時通信をたくみに活用した戦略で、帝国はたちまち周辺諸国をたいらげた。三千年近くに渡って栄えた古王国もまた、戦わずしてその支配下に入ったと伝えられる。

れから数百年。帝国は未だに強力だったが、権力を巡る争いも激化していた。時の皇帝との衝突を避けるため、皇弟は忠実な部下とともに沙漠越えを敢行。その東に真帝国を興し、みずから真上皇帝と号して即位した。

帝国暦十六年。古王国の末裔で、皇帝に従って沙漠を越えて来たヤエトは、同僚たちの派閥争いに巻きこまれてとばっちりを食らい、帝国の辺境である北嶺に左遷されてしまった。今度こそ目立たず揉めず争わず、この地の果てを理想の隠遁場所にしようと思いさだめる彼だったが、罵詈雑言の応酬で一向に進まない議事に業を煮やし、ついに耐えかねて、無理矢理話をまとめてしまう。二度とこんなことはしないと決意をあらたにしたところへ、都から騎士団が訪れた。帝国の流儀を知らない北嶺人と、威丈高な騎士のあいだで、さっそく大騒ぎに。

らば、穏やかな老後よ——なんとか仲裁をしようと進み出たヤエトは、あり得ない事態に直面させられる。