「隠居です」
帝国の尚書局史部に所属する史官だが、実態はなんでも屋の書記。生来虚弱で熱を出しやすい。左遷先で皇女の副官に任命されてしまった、幸運なのか不運なのか、よくわからない三十六歳。かるく十歳は若く見えるのと、うっかり自分で自分の仕事を増やしてしまいがちなのが悩み。
皇女
「次はその口に、命と引き換えにしても
守るといわせてみたいものよ」
真上皇帝のたったひとりの娘として溺愛され、かなわぬ願いはないとまでいわれている十四歳の皇女。お年頃のはずだが、馬に乗ったり剣をふり回したりする方が好き。北嶺に赴任したのも、父皇帝に領地をせがんだ結果らしい。同腹の兄である第三皇子と仲がよい。
ルーギン
「わたしの心にふれることができるのは、
あのかただけです」
大貴族《金獅子公》家の若様で、皇女の騎士団長。家柄善し、器量善し、礼儀作法善し、剣をとらせれば宮廷一の呼び声も高いという完璧さで、《華の騎士》とも呼ばれる。学舎にいた頃に舎監をつとめていたヤエトと面識があり、今でも「先生」と呼ぶ。
セルク
「あなたを見て思ったんだ。
尚書官というのも立派な仕事なんだ、と」
北嶺で現地採用された尚書官のひとり。熱しやすい性格だが、根は善良で誠実。帝国に漠然とした憧れを抱く親帝国派で、なぜかヤエトに懐いている。短弓を扱わせれば右に出る者はないほどの腕前だが、賭けのネタにされるのは嫌っている。
グランダク
北嶺で現地採用された尚書官のひとり。セルクの友人で、遊び上手。賭け事が大好きで、なんでも賭けのネタにしてしまう。ネタ元筆頭のセルクを怒らせることもしばしばだが、そこまで含めて遊んでいるようだ。
イスヤーム
北嶺で現地採用された尚書官のひとり。反帝国派のため、セルクとは犬猿の仲。アルサールの親戚。
ルーギンの部下で、皇女の騎士団の副団長。見かけはごついが、中身は案外ロマンティスト。押しの一手で娶った妻ミアーシャと末娘への愛を語らせると止まらない。
城の厩舎を仕切る老人で、つねに厩舎第一で、我が道を行く。ヤエトが厩舎の安泰に一役買ったため、親切にしてくれる。
タルキン
厩舎長が受け入れた、たった一人の助手の少年。セルクの親戚。字がうまい。
アルサール
厨房で見習いをつとめる少年。イスヤームの親戚で、計算が得意。実は武芸にも秀でる。
伝達官
皇女がヤエトに付けた伝達官。無関心、無感動に見え、余分なことはしない方。女性。
ウィーシャ
皇帝が皇女に付けた伝達官。やや言動がおかしく、人形めいている。