書肆 うさぎ屋

updated 9th January 2006

特設書架:このデビュー作がすごい(2005年読了版)

2005年に読んだ本のなかから「デビュー作」のオススメをピックアップ。
初版が刊行された時期にはバラつきがあります。現時点で入手困難な本は省きました。
ゴスペラー 湖底の群霊   極楽|大祭|皇帝 笙野頼子初期作品集   吉永さん家のガーゴイル   聖者の異端書   オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う   戦う司書と恋する爆弾   裏庭で影がまどろむ昼下がり   氷菓〈古典部シリーズ〉   賢者なんて大キライ!

見落としも恐れず、とにかくピックアップ!

  1. 2005-02-03読了『ゴスペラー 湖底の群霊岡田剛 →感想
  2. 2005-03-10読了『極楽|大祭|皇帝 笙野頼子初期作品集笙野頼子 →感想
  3. 2005-03-30読了『吉永さん家のガーゴイル田口仙年堂 →感想
  4. 2005-09-03読了『聖者の異端書内田響子 →感想
  5. 2005-09-10読了『オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う栗原ちひろ →感想
  6. 2005-10-05読了『戦う司書と恋する爆弾山形石雄 →感想
  7. 2005-10-20読了『裏庭で影がまどろむ昼下がり縞田理理 →感想
  8. 2005-12-06読了『氷菓』〈古典部シリーズ〉米澤穂信 →感想
  9. 2005-12-28読了『賢者なんて大キライ!』〈サウザント・メイジ〉佐々原史緒 →感想

 以上、9冊。多いような、少ないような……とにかく、それぞれに魅力を感じた本をピックアップした。タイトルからはAmazonの詳細ページへ、著者名からは拙サイト内の著者名別感想文一覧ページへ、感想はもちろん個別の感想ページへリンクしている。

 すでに感想を書いた本、また書き直すのもつまらないので、むしろ「どういう本を求めている人に合いそうか」で分類してみよう。

ほのぼの←→殺伐

吉永さん家のガーゴイル 極楽|大祭|皇帝 笙野頼子初期作品集

 まず、ほのぼの系の最大の雄は『吉永さん家のガーゴイル』だろう。2004年の刊行開始以来、鉄板の「笑って泣けてしんみりできる」路線をキープ、……しているらしい。「らしい」というのは、読者としてのわたしが最新刊に追いついていないから伝聞に留まるということで、読了済みの三冊については、最上級ほのぼのであると断言できる。以下、『裏庭で影がまどろむ昼下がり』が、たまにギョッとするような異質さをうかがわせつつも基本はほのぼの、『氷菓』もどこかのんびりした風があるので、ほのぼの派読者にも支持されると思う。

 逆に殺伐の極北は、一瞬の迷いもなく『極楽|大祭|皇帝 笙野頼子初期作品集』。次いで、『戦う司書と恋する爆弾』か。

新人らしさ——情熱と個性の発露

ゴスペラー 湖底の群霊 戦う司書と恋する爆弾 オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う 聖者の異端書

 デビュー作は、多少破綻しているくらいでいい。どうしてもその話を書かねばならないという内圧と、勢いと。そして、その作者の個性がうかがえて、次の本でどう成長してくれるのかと楽しみにさせてくれるくらいが、いいのだ。

 そういう感覚を抱けた作品ということになると、まずは『ゴスペラー 湖底の群霊』だろう。物語には破綻があるのだが、それを差し引いても余りある魅力が、素人離れした描写力で支えられている。このアンバランスさ! 次回作を絶対に読みたいと熱望させる力がある。次いで、『戦う司書と恋する爆弾』。せっかくの世界観を生かしきれていない部分はあるが、個性的な作品であることは万人の認めるところだろう。『オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う』も、どこかバランスを欠いた作品であるにもかかわらず、魅力的に感じられる。未だ語られざる大枠の設定が、作者が心をそそいだ別世界の風を運んでくれるからだろう。

 そして、別の意味で新人らしいなと思うのは『聖者の異端書』。すばらしい着眼点と、しっかりした描写力に支えられた、去年読んだ本の中でもかなり強く印象に残る一冊だったが、著者自身が納得するために書かれ、たまたま嗜好を同じくする読者に受け入れられる本である、とも感じた。エンターテインメント系のレーベルからデビューした以上、外部から、ああしてくれ、こうしてくれという注文が来るはずだ。今後どうなっていくのか、心配しながらも次回作を心待ちにしてしまう。

先へ行くほどよくなる

裏庭で影がまどろむ昼下がり 氷菓〈古典部シリーズ〉 賢者なんて大キライ!

 去年、特設書架:少女向け文庫はあなどれない!でとりあげた〈霧の日にはラノンが視える〉シリーズの著者による、雑誌デビュー短編から始まる連作短編集、『裏庭で影がまどろむ昼下がり』は、前出のシリーズがそうだったように、尻上がりに良くなっていく。著者が小説を書くことに習熟しつつあるのだろうし、また、伏線を張ってから最後で収束させるのがうまいタイプなのだろうとも思う。なんにせよ、今後も注目の書き手。

 後半がいいといえば、『氷菓』も導入部は「ふーん」くらいだったが、次第に盛り上がった。同じ著者が三年後に書いた『春季限定いちごタルト事件』(→感想)でもそうだが、話を展開していくときに配置してあったものが、後半でそれぞれの別の意味をもつことが明かされ、世界を変革するほどの勢いで「違う見えかた」を提示するのが、すごい。

 そして最後に『賢者なんて大キライ!』。これは、〈サウザント・メイジ〉というシリーズ内でもそうだが、去年完結した〈トワイライト・トパァズ〉(→シリーズ一覧)も同じで、とにかく最後が盛り上がる。誤解と苦難の連続を、めげずに笑って前に進んで切り抜けて、そして最後に到達する場所で一瞬の幸せをかみしめられるなら、それまでの苦労などなんだろうと思わせてくれる、読み手を元気にする物語の書き手だと思う。

 以上、わたし自身にとってはどの本も「一読の価値有り!」。読者諸賢のお好みにあわせた本選びのご参考になれば、幸いである。今年もおもしろい本に巡り会えることを祈りつつ。

2006.01.09