書肆 うさぎ屋

updated 21st March 2005

特設書架:文庫で読めるD.W.ジョーンズ

ダイアナ・ウィン・ジョーンズは『ハウルの動く城』だけじゃない!
             

この春完結!!〈デイルマーク王国史〉全四巻


 まずは、2004年から刊行が始まり、2005年春にめでたく完結を迎えた〈デイルマーク王国史〉全四巻。

  1. 詩人たちの旅』(→感想
  2. 聖なる島々へ』(→感想
  3. 呪文の織り手』(→感想
  4. 時の彼方の王冠』(→感想

 南北に分裂して争う諸侯と、その政争に巻きこまれた人々を描く——と書くと堅苦しく響くかもしれないが、そこはジョーンズのファンタジーなので、親子兄弟の相克と歩み寄りがかならず響いており、しかも背後に豊かな魔法の力がしっかりと感じられる。

 シリーズ第一巻の『詩人たちの旅』では、政情不安な国境を越えて旅をする楽師一家の日常がとりあげられる。個人的に特筆すべきは、ここで扱われる魔法は音楽であり、語りであるということ。演奏者ももはや完全に信じてはいない伝説が生き生きと音符のあいだから立ち上がり、響き渡るシーンはまさに圧巻。

 第二巻『聖なる島々へ』では、第一巻で語られていた捕虜のエピソードが顔を出し、前作とは違う立ち位置の人物から政情が語られることになる。ここでの魔法は海に、また遺跡にある。

 第三巻『呪文の織り手』は一転時間を遡り、前二作では伝説の彼方となっていた部分が扱われる。題名が示すように、魔法は織物を通じて顕現し、一枚の織物として織り上げられた物語を読み上げる形式ですべてが語られるのだが、魔術による戦闘シーンの迫力が見事。

 そしていよいよ第四巻ではすべての物語が紡ぎ合わされる……。

かっとびドメスティック・コメディ、ダークホルム

 人間もグリフィンも関係なく家族。我々の常識を覆すこの一家が、異界——どうも我々の属する日常らしい——から訪れる観光客の先導役そ、それを脅す魔王「闇の君」役を割り振られた。さあどうする!? というのが、『ダークホルムの闇の君』(→感想)。それぞれに不平不満を抱えた家族が、困難に向けて一致団結……と簡単にはいかないものの、ぶつかり合い、文句をつけ合いながら微速前進、やっぱり家族っていいかも? な物語。

 ジョーンズらしさが遺憾なく発揮された一作。拙文が解説として添えられているので、これ以上なにを書けば? 状態。うまい推薦文が思いつかず、やや残念。

 追って刊行された『グリフィンの年』も、同じ世界と家族を扱った物語なので、併せてどうぞ。

モダン・フェアリー・テールの傑作『九年目の魔法』

 シリーズ物に手を出すのがためらわれるという人に、強力に推したいのが単発の二作品。それぞれ現代に生きる少女を主人公にしているが、どちらも日常を非日常が浸蝕するおそろしさ、そして異質さと美しさ、手にふれ得ぬものの貴重さを切実に訴えてくれる。

 ことに『九年目の魔法』は本好きにはこたえられない一冊。毎年「オススメ本」が贈られるなんて環境で生活できるなんて。しかもそのラインナップが素晴らしい。抜群の選択眼とバランス感覚で選ばれた最良のファンタジーを、次から次へと送ってもらえるのだ。こんな羨ましい話はない。

 そうした本たちが囁く古い物語、神話や伝説の領域から黄昏へと消え去った妖精譚の醸し出す雰囲気を支えるのは、美しい楽の音。これは「本ファンタジー」であると同時に「音楽ファンタジー」でもあるのだ。

 同じく単独で読める『わたしが幽霊だった時』(→感想)は、ホラーとファンタジーが融和したような位置取りの作品。モダン・ファンタジーが真剣に「この世ならざるもの」を描き、同時に日常をも描こうとすると、どうしても世にいうホラーの領域に踏みこむことになってしまう。この作品ではそれを逆手にとって、主人公はいきなり自分を「幽霊」と思いこんで行動する。

 例によってジョーンズらしく、とんでもなくエキセントリックな姉妹の言動が楽しい。

2005.03.21