what i read: 七姫物語 第二章 
世界のかたち


書名七姫物語 第二章 世界のかたち
著者高野和 Wataru Takano
発行所メディアワークス(電撃文庫)
発行日2004.01.25
ISBN4-8402-2574-5

 東和の地。七人の「宮姫」と呼ばれる巫女姫を戴く都市群が、あるいは共生し、あるいは激しく他者を糾弾しながらも、平和をたもってきた時代。その和を乱す、四宮琥珀姫と七宮空澄姫、それぞれの宮都市のあいだに起きた戦争は終わった――。

 損はさせないから、と胡散臭い二人組に拾い上げられ、一介の孤児から王家の血をひく宮姫にまつりあげられた、カラ。四宮を南へ流したあと、巫女である空姫は戦死者の死を悼むため、喪に服して宮に篭ることになっていた。だが、それは表向き。カラは侍女のカラカラとして、彼女を拾った二人組、政治屋のトエと戦争屋のテンのあいだを、ちょこまかと動きまわっていた。

 宮姫の存在とは、なんなのか。冬の祭りの準備に賑わう街を歩いて、いつものように仕事を放りだして姿を消したテンを探すうち、カラは剽軽な画家に出会う。彼の仕事は絵空師。見たこともないものを、かくあれかしという姿に描くのが本分だ。先の戦争で負傷したという彼の作業を見守っていたのは、どこか武人の雰囲気を漂わせる男だった――。

 第9回電撃ゲーム小説大賞・金賞受賞作の続編。けっこう時間があいたような。

 あらすじを思い返してみると、敗北した姫の追放、お忍びでの街歩き、残党の襲撃と、派手な話になりそうな要素は詰まっているのに、淡々とした印象しか残さない。だが、それがこの物語の味わいというものなのだろう。ものたりない、とは思わせないのだから。

 その淡々とした味わいの最大の原因は、主役であり語り手でもある空澄姫ことカラの位置づけだろう。

 今回は東和七宮のどの宮も沈まず、あらたな戦端がひらかれることもなく、そういう意味では繋ぎのエピソードだということもあろう。だが、たとえ戦になろうとも、カラは護られるべき存在として、実際に、血腥い場所に近づくことはないだろうし、やはり淡々とした展開になるだろうという気もする。

 たとえば、高い地位にある人物が、身分を隠して忍び歩く――といった設定で動く物語は、ほとんどの場合、「実はワタシは※※だったのだー」「ははーっ」というパターンを踏襲するので、そこでわかりやすく、派手になるわけだが、この物語はそういう展開にならないのだ。と書いてしまってもネタバレにはあたらないと思うくらい、読者にそういう期待もさせない。

 カラは、自分から動くことをほとんどしない。彼女はかなり徹底して「流される」存在である。自分が乗せられている流れを分析し、あれこれと思いを馳せることはあっても、ほとんどすべてを受容してしまう。

 政治向きのことはテンとトエに任せているのだし、かれらに拾い上げられた存在なのだから、流されるのもしかたないだろう。それにしてもまだ12歳、ほんものの宮姫でおのれの地位相応の矜持を持つわけではないにせよ、仮にも姫と奉られれば、勘違いして驕慢になる娘もいないはずはないが、カラのパーソナリティはそうした性質からはほど遠く、さりとて無造作に自分の位置にぬくぬくと収まって思考停止、というわけでもない。

 どこがどう、と尖った個性があるわけでもないのだが、非常に独特なキャラクターなのだと思う。どんな色にも染まりそうな、うつろな空に見えて、実はなにもかもを受容できるその「枠」自体、揺るがぬ存在であるというような。

 彼女の周囲をいろどる人々は多彩で、カラの護衛をつとめる少年ヒカゲは無口なのに存在感があり、相変わらずカラに深く影響を与える黒曜姫や、謎の衣装役も健在、そして新登場の絵空師エヅと傭兵キリハも印象深い存在として描かれている。

 やはり主役級のテンとトエのキャラクターは秀逸で、その悪びれなさ、既に権力を握りはじめていながら、その実、根がちっとも生えていない浮き草っぽさが、実にいい。

「危なくなったら、自分だけ逃げるとかですか?」
 トエ様は屈託のない表情で頷く。
「そうだね。君との契約は、僕もテンも護る努力はするけどね」
「契約ですか?」
 天頂からの陽ざしが目映く、庇の影も短い時間の中で、暖房と外気の温度差が生んだ曇り硝子の向こうを眺めるトエ様。
「君に損はさせないよう努力するって奴さ」(p.116-117)

 屈託なく頷いてるところが最高。

 個人的に親しみをもってしまったのは、絵空師エヅ、というより絵空師という職業自体かもししれない。

読了:2004.01.22 | 公開:2004.02.03 | 修正:--


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