AV女優へのインタヴュー集、第二巻。前集『AV女優』(
*1)の文庫版が1999年に刊行されているので、三年ぶりの文庫化ということになる。
内容はタイトルそのまま、現役のAV女優たちへのインタヴュー集成である。雑誌『ビデオ・ザ・ワールド』誌に連載されたもの(一九九六年四月号〜一九九九年六月号/森下くるみの回のみ雑誌『ビデオメイトDX』一九九九年二月号)を、まとめてドン、という本なのだろう。掲載誌の購読はしていないので、雑誌掲載時から加筆・訂正があるのかどうかはわからない。
たしかこれは前の巻に書かれていたことだと思うのだが、このインタヴューが連載されていた雑誌の読者は、女優たちの生い立ちのあたりに焦点をあてるこの原稿に、そう興味を持ちはしないのではないか、というような文章があった(記憶にたよって書いているので、わたしが勝手に頭のなかで捏造した代物かもしれないことは、一応、お断りしておく)。
たとえば、女優たちがどのようなインタヴューに慣れているかは、以下の文章を読めばわかるだろう。
「さあ、なんでも聞いて下さい。なんでも喋りますから」
十分後、真純まこが怒った。
「子供の頃なんか覚えてないよ!! 親のことなんか喋りたくないよ!!」
――……。
「喋りたくないったら!!」
女性マネージャーが慌ててタレントをフォローした。
「彼女、男性の経験数が七百五十人を超えてるんです」
そのことなら、彼女と会う前に読んだ何冊かの彼女へのインタビュー記事で知っている。中学生のときは学校の男性教師のほとんどとセックスしたのだそうだ。
つまり、真純まこの「なんでも喋る」は、「セックスのことならなんでも喋る」ということだったのだろう。
私は口ごもってしまった。
すると真純まこが口をとがらせて言った。
「子供の頃の記憶は、おばあちゃんに殺されかけたってことしかないよ」(p.91より)
要するに、AV女優の生い立ちに焦点をあてるようなインタヴューは、その業界では滅多にないものであり、異質なのである。
よって、前述の(記憶なのか、わたしが勝手に捏造したのか不明な)文章につながる。
なるほど、もっともかもしれないと感じた反面、ではなぜ、その連載が企画されたのだろう。こうも息が長くつづいているのだろう。そもそも、掲載誌のカラーに合わないと考えながら、インタヴュアーであり執筆者でもある著者が、それを合わせようとしないのはなぜだろう――といった考えが脳裏に浮かんでは流れて消えた。
なんとなく、「必然」だったのではないだろうかとも感じるが、それが真実かどうかはわからない。
少なくとも、この本が必要とされていることは自明だろう。でなければ、単行本が文庫化されたりはしないし、短い期間にいくつも版をかさねたりもしない。
そしてわたしだって、
「あ、2巻が出てる」
と即座に手にとり、レジに持って行ったりはしないのである。
収録されているのは、女優三十六人のインタヴュー。目次に掲載されている順に、女優さんの名前を挙げておく。敬称略。
加藤みちる/三浦しほ/水奈りか/香月あんな/春希/真純まこ/武藤沙利奈/みずしまちはる/羽鳥さやか/立花まりあ/小室瀬里奈/寿綾乃/スージー・スズキ/星崎るな/池田ふみか/夏樹みゆ/結城綾音/一ノ瀬茜/桜木亜美/真木いづみ/京野さおり/愛梨華/新庄愛/遠野みずほ/岩倉舞/白鳥七瀬/羽山亜衣/渡瀬めぐみ/山咲あかり/風間ゆみ/千夏ゆい/水原紀香/森下くるみ/鈴木くるみ/秋野しおり/朝倉まりあ
一見して、ひらがなの名前が多いなあ、と感じる。プロダクションの方針かな。
内容にほとんどふれていないのだが、ひとりずつの個性が独特で総括的な感想が難しい。わたしがいちばん理解しやすいと感じたのは、「インターネットで広く浅くつながりたい」と言う、羽山亜衣氏だろうか。
ホームページ作成代行業もつとめているという彼女のインタヴューは、とても「わかりやす」かった。ネットワーカーというか、ネット人種というか、そういう代物であるわたしにとっての「わかりやす」さであって、そうでないひとにとって、どうであるかは不明だが。
引用しておくと、こんな感じ。
「(前略)例えば今のコたちってカラオケに行くじゃない。カラオケにはまず一人では行かない。何人かと行くでしょ。すると他の人間の歌も聞かなきゃいけない。すると、なんでこんな奴の歌を聞かなきゃいけないのってなるわけよ。ゲームやってる分には自分一人だけの世界だから楽だよね」
人間関係を作るのは苦手?
「……苦手ってほどじゃないけど、あんましうっとうしい関係ができるのはイヤ……」
(中略)
「部活はしなかった。集団で何かやるって、面倒くさいねえ。なんでせっかく一人になれる放課後、クラブ活動なんかしなくちゃいけないの?」(p.455より)
理解できすぎてクラクラする。多かれ少なかれ、こういう感覚がある人が、「趣味:読書」という生きかた(……生きかた?)を選ぶのではないかな、とぼんやり考えてみたりもしたが、よくわからない。
インターネットで広く浅くつきあいたいという言葉の「浅く」は、「うっとうしい関係」を避けた、かろやかなつながりのことなのだろう。だが同時に彼女は、友だち同士なら悪いことは悪いと指摘しなければ、大人も子どもを叱らなければというような価値観も持ち合わせているらしい。これはこれで正論だろうが、どこかに矛盾が透けて見えて、その矛盾があるからこそ、さらに「わかりやすいなあ」という感覚が持てる。
ネットのどこかに、この人もいるんだろうなあ。
そんな感慨を抱きつつ、本を閉じた。
- *1『AV女優』
- 同じ著者による、総勢42人のAV女優へのインタヴュー集。
→感想
読了:2002.07.31 | 公開:2002.08.10 | 修正:-