SFオンラインの井辻朱美氏による評を読んで興味を抱き、購入。
別の高校に通っている友人、武流に誘われて、あけみはTRPGをはじめてプレイすることになった。手慣れた感じのほかのプレイヤーたちとともに赴いた架空の冒険は、あけみを夢中にさせるおもしろさだった。ゲーム・マスターをつとめた武流もまた、あけみの初心者とは思えないプレイぶりに、賛嘆の念を抱いたほどだった。
あけみが演じたのは召喚師・アイーダ。彼女はゲームのなかで《甲冑の乙女》と名乗る悪霊に憑依されてしまう。パーティーにくわわっていた無敵戦士とアイーダの共闘で、ようやく悪霊を封印することができ、ゲームは大団円を迎えたが、ほんとうは、まだなにも終わっていなかった。
プレイヤーのひとりは、あけみと同じバスで帰る道すがら、彼女のコンプレックスをみごとに刺激してのけた。武流をあけみにとられるのが癪だったのだ。
武流は困惑していた。大成功に終わったかに見えたセッションだったが、彼が思い描いていたシナリオとは違っていたのだ。
そしてあけみ本人は、もっとも大きな影響を受けていた。なんと、彼女のなかに《甲冑の乙女》があらわれ、身体をのっとってしまったのだ。
「あれはゲームじゃなかったの……?」
物語は、まだ動きはじめたばかりだった――。
これに謎の教師や謎のセラピスト、謎の暴力関係専門家が関わってくることになるのだが、そこまで説明していると、あらすじを半分がた消化してしまうので、まずはこのへんで。
サイコ・ホラーとファンタジーを融合させたような設定で、そのふたつをつなぐのが、テーブル・トークのロール・プレイング・ゲーム。ということで、実においしい要素をぶちこんだ一作である。
うまくまとまっていると思うが、精神分析から統合への流れがあまりにもスピーディーすぎること、教師の存在がやや特殊で、うまく物語が接合していないように感じられることなどが、難点というところだろうか。
サイコ・パートとファンタジー・パート、そして現実パートと盛り沢山なため、個々の要素にかけるべき手間(というか、ページ数?)が不足気味に感じてしまうのが原因の一端で、そのなかでもかなり特別な位置づけにある教師の存在が目立ってしまうのかもしれない。彼個人が背負う過去や背景といったものがわずかしか明かされない(=わたしが必要だと思う以下の情報量しかない)ため、物語がきちんと終わっていないような感覚が残るのである。
具体的な不満はそれくらいか。波乱万丈、愛あり恋あり暴力あり絶望あり暗い過去あり明るい未来あり、いろいろあって一気に読めた。
ロール・プレイングはもともと心理学的な両方のひとつとして存在するものだし、心の襞に分け入るのはファンタジーの得意とすることだから、この三つを結びつけたのは、実にいい着想で、しかも成功していると思う。
しかも、前半と後半それぞれに一回ずつあるゲームのセッションが、実にうまく描かれているため、物語に説得力を与えている。こういう描写は、何回もセッションをこなしてきた人間ならではのものではないかと推測する。
ちなみにわたしは数回おこなった程度か。あー、十回くらいはやっているかも。
イラストは、カバーより口絵の方が好きだなあ。逆の方がよいのでは、と思ったくらい。
読了:2001.12.16 | 公開:2002.04.29 | 修正:-