what i read: 三国志 七の巻 諸王の星


書名三国志 七の巻 諸王の星
著者北方謙三 Kenzo Kitakata
発行所角川春樹事務所(時代小説文庫)
発行日2001.12.18(角川春樹事務所/1997.10)
ISBN4-89456-949-3

 燃え上がりまくりの北方三国志、第七巻。今回は文字通り燃え上がる。岩壁が赤く染まったと伝えられる「赤壁の戦い」をメインに据えた一冊。
 例によって腹を括って話の展開をぼかすことのない、いわゆるネタバレな感想文なので、気になるかたはここより下はご覧にならないよう。
 さらに腹を括って趙雲ピックアップも充実させてみた。そういう、括らなくてよい腹はどんどん括れる自分に目眩いが。






 赤壁の戦いは、圧倒的な大群で押し寄せる曹軍に、劉備軍と呉軍が同盟して対抗した戦である。風向きが変わったときに、投降を装った黄蓋が曹操の水軍に近づき、火攻めを敢行した。追い風が、つなぎあわせた曹操の軍船をことごとく焼き払い、惨澹たるありさまとなった。曹操はからくも窮地を脱出した。

 相変わらず、そういう骨格はそのままに、細部を自由に組みたて直し、読みごたえのある「男たちの戦いの物語」を描きだしている。
 今回とくに目立つのは、周瑜であろう。美周郎と呼ばれる美丈夫で、風流を介し、美女の誉れ高い女性を妻に持つ周瑜。既に若くして横死した孫策と「断金の交わり」と言われるほど強い友情で結ばれていた彼が、遂に鍛え上げた水軍をもって曹操を撃ち破る。その明晰な頭脳、果断な判断力、どれをとっても超一流の人物として描かれている。
 その周瑜と諸葛亮の邂逅、いずれは敵味方となるだろうと互いに予感しながら、相手の才の大きさを感じ、評価しあう。かっこいいなあ、もう! というしかない。
 周瑜の非凡さを感じたのは劉備もで、彼が諸葛亮に言う言葉がいい。以下引用。
「心せよ、孔明」
「なにをでございます?」
「非凡だということは、孤独だということだ。私の麾下に加わってくれたおまえに、孤独な生涯を送らせたくはない。凡人を理解できる非凡さを、おまえは持つことができるはずだ。それを、心せよ」(p.145-146)
 なんとなく、ああ、なるほどなあ……と思う。こういう台詞に、劉備の劉備らしさを託して描いているのだとも感じる。たとえばこの小説に登場する曹操は、こんなことは言わないだろう。彼は孤独な生涯をなんとも思わない、少なくとも友情というものが人生に必要だと意識しない人物として描かれているからである。
 呉の孫権は、まだ若いから、こんなことは言わないだろうなあ。

 戦闘シーンでは、捨て身の攻撃を主とする小型艇を用いての水上戦、落ち延びようとする曹操と追いかける張飛・趙雲の手に汗握る追撃戦、張飛 VS 許チョ[ころもへん+者]、こちらも見所満載。
 個人の武勇で言えば、赤壁の戦いとはまったく関係のない場所でくりひろげられる、馬超と謎の盗賊集団の戦いもかっこいい。
 これで馬超は袁家の姫君袁リン[糸+林]と出会い、玉璽を手に入れ、さらに張衛に彼女を託すことになるわけだが、ずいぶんサバサバした人だなあという印象。袁リンがこれからどう物語にかかわってくるのかも、興味がある。

 黄忠、魏延も劉備軍にくわわり、曹操が本格的に司馬懿を認識しはじめたり、趙雲は趙範のところに駐留するから女は世にいくらでもいるというあのエピソードは使うのかなあと思ったり、とにかくたくさんいる登場人物たち、さまざまな場所のできごとを次々と書いていき、物語全体を動かす。

 さて、趙雲ピックアップ。つまり、好きなシーンだけ読み返すときのための自分用メモ。
 まず最初に、周瑜が劉備の陣を視察するシーン。p.135で、はじめて周瑜と対面し、言葉をかわしている。「精悍な部将」というのが周瑜が見た趙雲。もっとほめてー、周瑜!←ばか。
 p.141では、戦の気配を感じとりながら、落ち着いて馬具の手入れをする趙雲の姿が。ああ、かっこいい。←ばか。
 さらにこの後、追撃戦開始。p.161から、埋伏に備える張飛と趙雲。敵の気配に気づいた張飛に向かって、さっと対応策を提案する趙雲ってばもうかっこいい。(略)
 p.169-174、ついに追いついた張飛と許チョの一騎討ち、そして曹仁の援軍を前にしての冷静な会話、間道からあらわれた周瑜に礼儀正しく一礼して祝いを述べる趙雲たら(略)。
 p.205からの、関羽が率いる南部攻めのシーンにも、さらっと「数年の流浪をした趙雲だけだった」という記述があって、なんとなく泣ける。関羽と張飛が嫉妬するから、趙雲は「この人」と思った主君である劉備と一回別れ、流浪の暮らしに入ったわけで、なんとなくしんみり。

 やっぱり、三兄弟の絆は特別で、趙雲はどうしてもそこから一歩退いた場所に立っているのだなという感じがするから、判官びいきで趙雲が好きなのかもしれない。
 戦えば強いし、自分で戦いかたも考え、必要とあらば意見をするし、それでいてこうすべしと命じられれば全力を傾注してこなしていく。とりたてて欠点というものはなく、強いて言えば「華」がたりないキャラクターということになるのだろうが、そのあたりがまた好きであるような気がする。


読了:2001.12.15 | 公開:2002.04.29 | 修正:-


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