上下二巻で完結するシリーズ最新刊の下。
乱戦のなかで傭兵隊とはぐれたケロウィンは、敵地のなかで、敵の捕虜にされた異国人をみいだす。押し隠していた〈心話〉の〈天恵(そしつ)〉をもちいて、ケロウィンは彼とコンタクトをとった――それはケロウィンが予測した通り、噂に聞く、ヴァルデマール王国の〈使者〉だったのだ。
みずからも危地にありながら、ケロウィンは彼を救出することを選択する。
そうして、ふたりは敵地を隠れ進みながら、たがいの風習、信じるものの違いを乗り越えて、徐々に交流を深めていくが――
うーん。
そつもないし、目立った欠点はないと思う。すごくおもしろくて一気に読んだ。キャラクターは魅力的だし、世界観はきちんと組み立てられているし、生活している人々にリアルさがある。シリーズとしての構成もバッチリのような気がする。すべてを読んだわけではなく、ほんの一部を読んだだけで言っていることだから、判断基準は甘すぎるにせよ、読んだ範囲では非常によくできていると思う。
だから、以下の感想は「この上贅沢を言うならば」的なものである。
これは、上に書いた「シリーズの一部しか読んでいない」ことにも関係するのだと思うのだが、ヴァルデマール王国の比重が大きすぎるように感じるのだ。筆者がヴァルデマールとそこに属する〈使者〉、〈共に歩む者〉をたいせつに思っている気もちはひしひしと伝わってくるのだが、我等がヒロイン――タルマやケスリーもそうだったが、ことに今回のケロウィン、そしてヒロインではないが彼女の友人である王弟殿下ら――が、かくもコロリと〈使者〉たちに、ヴァルデマールの人々に参ってしまうのが、どうもいまひとつしっくりと了解できないのである。ヴァルデマールをメインにした物語のほとんどが本邦では未紹介なせいもあって、
「なんでこれにこんなに思い入れるの?」
と、どこか置き去りにされた感を抱かされてしまうのだ。
これはちょっと寂しい。
もうひとつ言えば、物語のおおまかな流れがタルマとケスリーのそれに似すぎていて、水戸黄門の新シリーズを見ているような気分がちょっぴりだけしてしまったこと。それから、終盤の展開が主人公とその仲間に都合がよすぎて、やや拍子抜けしたあたりが、強いて言えば難点かと思う。
どうも、この著者の作品に望むレベルが高すぎるのではないかと自分でも思う。上に述べた内容は、「贅沢言わせてよ!」という我侭でしかないような気がする。
ただ、著者がそういう方向に行きたいと思っているかどうかは別として、たぶん、もっと完璧な作品(=わたしにとって)が書ける力量の持ち主ではないかと感じているので、それが評価に直結しているのかもしれない。
海外ファンタジーのファンはとりあえず押さえておくべきシリーズ。フェミフェミうるさくないフェミニズムを作品世界にうまく馴染ませている点でも、見るべきものがあると思う。
読了:2001.12.14 | 公開:2002.01.12 | 修正: -