全五巻中第四巻
長坂の戦いから赤壁の戦い、馬超と韓遂のエピソードあたりまで。
例によって例のごとく、物語の展開について隠していないので、改行より下、ネタバレが気になる人には埋伏の毒。
北方三国志を読んだあとだと、
「そうだよなー、長坂ってひたすら劉備を慕う民衆が群れをなして……って話のはずだよなー」
と、なんだかホッとしたり、でも北方版の方が実情を反映していそうに思えたり。
ともかくも趙雲の見せ場がある長坂坡のくだりはこの巻におさめられているので、マスト・読。趙雲の単騎駆けはp.34からだが、読み返すならp.33からをすすめておくぞ、と未来の自分へ宛ててメモ。
そのほか、趙雲がとくに登場するのは劉備が孫家の姫君と結婚し、ほとんど人質同然になっていたあいだの警護役として。孔明の七つ道具(……ほんとに七つかどうかはわからないが、いま思いつきで書いただけなので)のひとつ、錦の小袋に入った策を用いて劉備を脱出させることになる。活躍というか、変わらぬまじめな忠義者、精勤っぷりが読めるという感じか。
周瑜が非常に嫉妬深い、他人の才能を無意識に妬む人物として描かれていて、ちょっとかっこ悪いなあ、と思ってみたり。妬むのはかまわないのだが、意識的に、自覚して妬んでくれないだろうか。その方がかっこいいのになあ。
まあそれはともかくとして、曹操が黄蓋の裏切りを信じようと決意する理由に、陳宮をからめている部分があって、何百ページも前に死んだ男のエピソードを実にうまく使ってあると思った。
この『興亡三国志』は曹操を主人公に据えたというのが謳い文句だが、読んでいると、いちばんカッコよく描かれているのは陳宮であるような気がする。
曹操、そして傍観者としてつねに飄々と曹操のもとにあり、彼を評価する役割を与えられた鄭欽の存在が、陳宮をいつまでも鮮やかに作品世界のなかに止めているように思われる。
今まで書き漏らしていたが、このシリーズ、正子公也氏によるカバー・イラストが実にすばらしい。武将のポートレートなのだが、一巻は朱金の鎧に身をかためた曹操、二巻はどこか遠くをみつめる劉備、三巻は赤兎馬に跨がった関羽の勇姿、この四巻はまさに剣を抜かんとする孫権である。最後の五巻は白羽扇を手にした諸葛亮。いずれ劣らぬかっこよさで、ほれぼれと見入ってしまう。
さすがに陳宮や鄭欽は表紙にはならず、残念。
読了:2001.11.24 | 公開:2001.12.31 | 修正: -