what i read: 恋じゃない


*Cover* 書名恋じゃない
著者久美沙織 Saori Kumi
発行所光文社(光文社文庫)
発行日2001.10.20
ISBN4334732151

 いただきもの。久美さん、ありがとうございました。

 光文社文庫の女性作家特集企画のうちの一冊。
 帯に引用された著者あとがきによれば、
「一度ぐらい、マジの本気で恋愛を書いてみよう、と決心した。」
 ということで書かれた一冊らしい。
 睦美は化粧品会社のマヌカンである。生まれは東北、思いきって就職した憧れのエクリュ化粧品で、勤務先は渋谷ではどうかと打診を受けたときには夢ではないかと思ったものだが、渋谷は渋谷でも、薬局勤務。デパートやファッションビルなどの激戦区に配属された同期の誰かさんたちに置いていかれる気がしていた。
 いつのまにか、薬局の雑務も引き受けさせられる日々。通りに酔っぱらいが吐いたものの始末まで睦美の仕事なのだ。化粧品コーナーだけが担当のはずなのに。その日もゴム手袋をはめて勇ましく吐瀉物に立ち向かった睦美は、交通事故を目撃してしまう。ひき逃げされたバイク。倒れた青年。派手に走り去る銀色の乗用車。通りの向こうにセダンが停まり、やはり事故を目撃していたと思しき男性が駆け寄ってきた。倒れた青年を励まし、携帯電話で一一〇番して……。
 睦美はあっけにとられていたが、暫くしてようやく気がついた。この彼は、斜向かいのオシャレなレストランから出てきた夢のようなカップルの――それは美しくゴージャスな女性と、彼女が寒がったとたん、待っていたように肩からパシュミナをかけてあげる仕草が、「ああ、恋愛中って感じだなあ」と睦美を羨ましがらせたふたり――その、男性の方ではないのか?
 間近で見れば彼は睦美の初恋の人によく似ていた。いや、似ていない――ううん、似ている。事故のショックで混乱しつつ、これは彼とお近づきになるチャンスだと舞い上がった睦美は、次の瞬間には地の底まで落ちこむことになる。同じセダンから、ひとりの女性が降りてきたからだ。勿論、パシュミナをかける男性がいるからには、かけられる女性もいるのである。
 しかし、その場の勢いで、睦美はそのパシュミナ――レイカの家まで行くことになってしまった。
 冒頭からフル・スロットル。久美沙織テイスト全開なので、好き嫌いははっきり分かれるだろうと思うが、たしかに、マジの本気で恋愛とはなんぞやに立ち向かっている物語である。
 化粧がうまいくらいしか取り柄がない(と本人が思っている)睦美の、劣等感、憧れ、妄想、現実。すべてが渾然一体となってひとりの「睦美」という女性を形作っているその雰囲気。手ざわり。すてきな恋愛がしてみたいと夢みる孤独な女性。でもその「恋愛」ってなんだろう。誰かを好きになるって、どういうことだろう。漠然とした迷いが徐々に輪郭をあらわにし、睦美の前に立ちはだかる。

 そういうわけで、恋愛に立ち向かってしまっているので、恋愛に酔う小説ではない。いわゆる「恋愛小説」と聞いてぱっとイメージするようなドキドキ感や盛り上がりがないわけではないのだが、力点は、真摯な問いかけの方に置かれている。
 恋愛ってなんだろう。生きていくってどういうことだろう。人が人を必要とすることに、どんなかたちがあるんだろう。
 そういう物語。
 ただし、ヒロインの睦美の悩みが四方八方に分散するぶん、リアルはリアルなのだけれど、ひとつの物語として読んだときには、どこがいちばん読みドコロなのかに悩むかなあ。そんなのは読者が自分で決めればよいことではあるのだが。

 途中で出てくるゲイバー(って言っていいの?)の「猫みたい」と評される無口なオカマさんが、出番ちょっぴりなのに無茶苦茶カッコええのでポイント高し。この人バイですか? バイなのよね? うわー。
 もうてっきりこっち側で盛り上がるかと思ったのになあ。南洋顔のセダンの王子様より、無口な猫の方が個人的に好みなので絶対に。王子様も、ものすごーくいい人なのだけれど、あまりに立派すぎて疲れそうなのでちょっと……。
 って二次元の殿方を真剣に値踏みしてどうする>自分

読了:2001.10.15 | 公開:2001.10.17 | 修正:2001.12.18


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