おまけ『シュレック』感想 | ||
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[2002/01/09] | ||
フルCG作品があまり珍しくなくなった昨今。それでも技術は日進月歩、よりリアルに、より自然に、画面のクオリティは上がっていく。 ただ、はじめに「珍しくなくなった」と書いた以上、既に画面が綺麗だというだけでは、リアルだというだけでは客は満足しないのも事実である。エンターテインメントならば、やはり観た者を満足させる「物語」が必要だ。 『シュレック』とは、この映画の主人公である怪物の名。彼は、緑色の巨漢であり、異相の化け物である。戯画化された外見、冒頭から汚いもの、気持ち悪いものと親しむ彼の生活スタイルがばんばん提示される。汚い沼地に建つ家、泥歯磨き、妙なかたちの耳からひっこ抜いた耳垢を立てれば即席の蝋燭に早変わり。そんな彼を退治すべく人々が押し寄せるが、ちょっと凄んで見せただけで全員が風のように退却。 この村人の来襲は伏線で、実は怪物が住む土地の領主が「おとぎ話の生き物を捕えて連れてくれば賞金と引き換える」というふれを出しているのである。そうして役人たちのところに連れてこられた生き物たちの姿を見れば、知識がある者ほどおかしいのではないだろうか。かつてディズニーのアニメで観たような者たち――ピノキオや妖精の姿が、あきらかにそのデザインを引きずりながら、しかし立体で、かつリアルに『シュレック』の世界によみがえっているのである。白雪姫と七人の小人、眠り姫の三人の仙女、三匹の子豚。次々とあらわれるかれらの姿には、「CGなど、もはや珍しいものではない」と言い切ったはずであるにもかかわらず、やはり感動してしまった。あり得ざるものがリアルに動きまわるその絵面自体が、嬉しかったのである。 わたしは最近のディズニー・アニメは観ていないのだが(強いて言えば『ダイナソー』くらいか?)、ディズニーが御伽話をアニメ化すると、その根幹にあるべき毒をとり除いてしまいがちのような気がする。そこに描かれる悪は、主人公が対決して倒すためにのみ存在し、それ以上のものではない。そんな感じだ。昔話がそなえていたプリミティヴな残虐性、なんの気なしの一言で人ひとりの命を片づけるような無情さといったものが欠けているため、それは達者なストーリー・ラインで観る者の心を満足はさせても、どうしても表面をなぞるだけという感が残るのである。 だが『シュレック』は御伽話が本来持っていたそういう性質をきちんと踏まえ、あちこちでさりげなく毒をふりまいている。汚いものをとり除いた御伽話に慣れた人には、これが斬新なものに映るのかもしれないが、わたしの観点からすれば、非常にオーソドックスなところを抑えていると言いたい。 現代的であるという点は、誰が観てもおそらく理解できるだろう。ロビン・フッドのような、微妙にモンティ・パイソン的なおもしろみを備えたキャラクターもいるし――コーラス隊がロビンの栄光を称えるあたりでは、デニス・ムーアや、『ホーリー・グレイル』のいとも勇敢なるサー・ロビンのくだりを思いだした――思わず吹きだしてしまった、一目瞭然『マトリックス』のパロディ・シーンなど。 お姫様はたおやかに、救い手となる白馬の騎士は勇敢かつ美々しく、というフォーマットの逆転は、御伽話を陳腐化させないための手段でもあるのではないか。たとえばシンデレラの基本的な物語の骨格を現代に移しかえるなら、灰かぶりが娼婦に、王子様が遣り手のビジネス・マンにと置き換えていけば、それで「現代的」になる。だが、お姫様はお姫様のまま、怪物は怪物のままの物語を現代において再生産する場合、置き換えねばならないものは、役割分担それ自体となるのではないか。そうすることで、いつともどことも知れぬ御伽話の空間を舞台にしながら、物語は現代人が許容しやすいものとなる。 「今の人間が作ったからこそ、同時代を生きる者が楽しめる共通認識に立つ」内容、を入れこみつつ、フェアリー・テールが備えるべき本質を失わないこと。それが、「現代に御伽話をよみがえらせること」の理想的なありかただとわたしは思う。そして、『シュレック』はそれを立派にクリアーしている。非常に楽しめた。 まあ、そんな面倒なこと考えないで、楽しく観ればいいだけのことなのだが。映画館からの帰り道でつらつらと考えてしまう自分が、あまり好きになれないかも。 ところでわたしが観たのは日本語吹替え版だ。吹替えはどのキャラも違和感なくハマっていた。だが、この映画に覚えた唯一の不満は、おそらく吹替え版ならではのものだろう。映画冒頭、シュレックが覗きこむ鏡や、あやしげな食物をむしった場所など、なにもない場所が意味もなく数秒カメラをとめたアップになるのだ。これは字幕が入っていた部分だと思われる。吹替えのため、俳優の名前などを削ってあるのではないか。 観ていて世界に入る気が削げたので、なんとかならなかったのかなあ、と思う。導入部はたいせつなものなのだから。 |
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