いつもこんな風ならいいのに、と少女は思った。
ずっと、いつまでも。
updated: 2006/11/20
宝石と毛皮に守られた子ども時代が終わった日——王女フィーリアの侍女として、エクレールは決意をかため直していた。 王子の失踪、それにつづく王の薨去。だが、残された王女に忠誠を誓うはずの諸侯の視線は冷たく、権勢を誇る宰相に至っては、公然と王位継承に異を唱える始末。 あやうく、王女は宰相の妻とされるところだったのだ。 これからの一年、王女は王者としての資質を試されることになる。王女を支える忠実な味方は、自分ひとり。頑張らなければと思いつつ、ふとエクレールは思い返していた——ほんの少し、わずか三年ほどの昔に戻れればと。まだ王女も、そして自分も子どもで、皆で笑いあえた頃に。 ——懐かしむのは三年前王宮の奥深くで、王女の暮らしは穏やかなものだった。侍女エクレールはもちろん、騎士に憧れる無邪気な少年アストラッドや、年長者らしく子どもたちを見守ってくれるヴィンフリートなど、家族同然に親しくつきあう人々に囲まれて。 それでも、変化は少しずつ訪れようとしていた。 アストラッドは親衛騎士ヴァルターを師匠と思い定め、剣の訓練を始める。空想の中だけでなく、現実に、騎士となるために。 聖誕祭に合わせて城を訪れた将軍シルヴェストルの口からは、彼の息子ヴィンフリートが、ノーストリリアへの留学を望んでいることを知らされる。 人知れず、王女は自分が置き去りにされてしまうような不安を感じていた。 訪れる、聖誕祭の季節そして、その年の聖誕祭。馬上槍試合『薔薇の守護』で、『紅薔薇の女王』をつとめることになった王女は、はじめての公務らしい公務を任され、競技場に姿をあらわすことになる。 騎士たちの華やかな試合や舞踏会の社交を背景に、子どもたちはそれぞれの変化に戸惑いながら、未来を見据えはじめていた。 |