おまえは違う。おまえの声は真実をうたう。
おまえの唄には、神が宿る。
※以下、リンク先の解説は本編のネタバレを含みます。
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妖魔の王(シリエン/シルヴァーリエン):すべての妖魔が氷姫の支配下にある北の大地にあってすら、彼の力はじゅうぶんに発揮されていた。アストラを救うため、彼は古い過ちを掘り起こすことになる。
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この巻には、『魔法の庭』としてだけ見たときは意味不明のパートがある。かれらを匿ってくれる、冥府の入口で魂を癒すふしぎな女性、シリアが登場する部分がそれにあたり、これは『風の名前』と『魔法の庭』のあいだに横たわる、シリエンの物語。
この話はまだ「小説にしようとしたこと」すらないので、こまかい設定もわからないが、まあ、そういうことがあったんだ、ということはわたしが知っているのでパスできなかった……という次第。ひとつの話としてみると、欠陥なのだけれど。
あのうたびとを、まだおまえに渡すわけにはいかないのだ。守ってやると、約束したゆえな。
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アストラ:南方王国の若きうたびと。六十年に一度の大祭で闇の御子アストゥラーダの役を賜り、聞く耳をもつ者には「まことに神を宿したもう」といわしめるだけの実力があったらしいのだが……。
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おれが主人公だー! と、アストラがリベンジしたの巻。あちこちで「アストラってほんとは凄かったんだ」というような感想が書かれているのに笑ったことを思いだす。そうなんです凄かったんですほんとは。彼は「すごいうたびと」である自分が基準なので、すごくない人の存在が理解できていない。みんな自分と同じくらいイケてると思ってしまう。無邪気に残酷。同業者にとってはつらい存在。
この巻の第二章は楽しかった。たぶんアストゥラーダを書くのが好きなのだと思う。
どこにいても、なにをしていても心臓の鼓動が高らかにうたう。
——我レハ闇ノ神。
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ナパール:南方人のうたびとで、アストラより三年年長。若くして風霊会議にも参画した実力者。アストラの歌唱を高く評価している。
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アストラの真価を知っていた数少ない人のひとり。と、思われる。グル・グラールのように引退した立場から見るのではなく、自分も現役の歌い手として、真に神を宿し得るアストラの声を聴き分けてなお、自身は同じようにはなり得ないことを実感するのは、精神的につらいだろうと思われる。
ナパールという名前はするっと出てきた。南方王国によくあるタイプの名前で、ヴァタールとかバールとか既刊でも登場しているように「-a-ru」と終わる男子の名前は多い。という設定である。アストラはわりと珍しい名前だが、そこはそれ、母親が北方混ざりなのでそういうことで。
おまえほどのうたびとが、なぜおれの忠告の意味をわからない。
聴かなかったことにしろと、おれはいわなかったか。
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グル・グラール:〈風の塔〉のうたびとたちに必要な規則などを記憶するため、代々ひとつの名を受け継ぐ長老格のうたびと。現グル・グラールとなっているのは、もとはリヤンダという名で、アストラの父を教えていたうたびとだった。そのため、アストラにも目をかけている。
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こんな予定じゃなかったシリーズ……。グル・グラールって誰!? それナニ!? まぁいつものことなので。
南方王国は名被せの術が盛んな地方らしいので、たぶん女神が変貌を遂げたあとも、古い教えが残っていたのではないか——そこに女神の遺児であるアストゥラーダの強烈な影響が入りこむ余地があったのではないか、と思う。「と思う」って、自分で考えてる話でどうしてこう他人事みたいな……。まぁいつものことなので!
そうおどろくな。老人どもはなにもわかっておらぬと思っておろうがの、どうしてなかなか知っていることもあるのじゃよ。
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シリア:死者の森の夢と呼ばれる冥府への入口の女主人。シリエンと因縁があるらしく、彼を弟と呼ぶ。
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シリエンの項でも書いたように、独立した物語がある人。たぶんいま書くと、むかし考えたような内容にはならないんだろうけれど……。
シリエンと同じく、御母女神が天界から墜落したときに生んだ神の一柱で、世界の狭間に生まれ、どの時空に存在するかも一定しなかったのを不憫に思ったシリエンが、……という話になるはずだが、こればかりは、書いてみないことには。確言不能なわけで。
あなたがどんなに自分を責めても、妾はあなたの味方です。
ひょっとすると、あなた自身よりも忠実な。
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影:アストラを追ってきた、現身であってそうではなく、かたく結びついた存在。南方で盛んな名被せの術によって、人にアストラの名を被せ、相似の存在を仮に創りあげたもの。
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なんでナパールが影を引き受けた/命じられた/押しつけられたのかを考えると、ものすごく暗くなるので作中ではあまりふれなかったはず。
名被せの術が盛んといっても、アストラがピンとこなかったり、〈百の塔〉とか呪師とか聞いただけで反感をもっていることからわかるように、一般人にも親しく知られているような術ではない。じゃあグル・グラールはどうなのかというと、「あれは古老が次々と記憶を伝えている」ものだとみんな勝手に納得している。はず。
ナパールの額にアストラの名を書き、あの指環をかけさせて影となしたのは、〈百の塔〉の呪師たち以外に考えられない。
——許せない。
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〈風の塔〉、〈百の塔〉:どちらも南方王国の職能集団と、かれらが本拠とする建物を示す。〈風の塔〉はうたびと、〈百の塔〉は呪師と呼ばれる異能者のためのもの。
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〈風の塔〉については本編中でかなり書いたので、〈百の塔〉について。南方王国の首都はクウィタ・セタ・ラングールで「百の塔の都」という意味だが、これは単に「たくさんの塔がある都」を「百」という数字で示しているもの。南方王国では「天地を繋ぐ」という観念が重要なので、塔ももとはそのための呪物として建造された——三巻まで読まれればおわかりの通り、アストゥラーダの指向するところが反映されたと見ていいだろう。
もとは全土統一を夢みた小王が、百の塔を建てて都を呪物となせば果たせるだろうと唆されて始めた……という設定だったような。だから、実際に塔が百あるわけではなく、呪師の塔である〈百の塔〉にしても、百番目の塔というような意味あいではなく、むしろ「百建てよう」という意味で初期に建造されたもの。だったはず。
北方王国や古い世界でいわゆる「妖魔」は、南方では「精」、アーンのような魔物は「鬼神」と呼び、専業の呪師以外が呪術をおこなうことは禁忌とされる。が、むろん勝手に呪術をなりわいとする者もいるわけで、その多くは女性なので「魔女」と呼ばれている。アストラの呪師や〈百の塔〉への反感、魔女への畏れなどは、南方王国では一般的なもの。
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天界の楽:あとがきにかえて
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アストラが南方でうたってきた音楽についての巻。美しく、厳格で、根源的な力はあるが、本来人のものではない音楽。
この『魔法の庭』は、はじめはコピーの同人誌に寄稿して連載という形式をとっていて、二巻の第二章までの内容は、あらかじめ(すさまじいダイジェストではあったが)書いたことがあった。
それを、大陸書房から刊行するために一回、きちんと通して書いたのだが、結局出なかった……のを、また書き直したので、三度めの正直がプランニングハウス版となる。
南方王国については、これも未完の(ゴメンナサイ)『邪眼の王子』でかなり書いたのだが、へたをすると延々と生活習慣の説明に入ってしまいがちなシリーズで、おそろしい。たしか『邪眼の王子』のときも、布の染め色がどうとか、染めかたがこうとか描写しはじめて止まらなくなり、困った記憶がある。
書いてみるまで本人も知らないことが多いので、書くといろいろわかって楽しいのだが、こんなディテールほかに楽しんでる人がいるのか……と、いつも疑問に感じていたり。
これは粗衣と呼ばれるもので、神謡をうたう者が沐浴をし、自分をうつろな器となしてから正式の神の衣装を身に着けるまでのあいだ、人でも神でもない者として過ごすあいだの衣装である。
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