CHANGELING - a funeral of WHITE
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〈琴手〉から連絡があったときには、娘の母親は死んでいた。
『おかしいんです。魂が、飛び立たない』
当然、敵を捕えたか始末した、あるいは意外にも取り逃がしたと来るかもしれないとは思っていたが、この反応は予測していなかった。
「よほど未練なのだろう」
『そうなのでしょうが……まだ遺体に留まっているのだとしたら、罠を張り直す必要があります。霊安室は近いですから、応急措置でなんとかなりましたが、葬祭場までは、ちょっと』
「なにをすればいい?」
『話が早くて助かります。不幸中の幸いというべきか、敵もおそらく遺体の移動に対処しきれないでしょうから、綿密な術をもちいてくるとは思えません。渡してある銀の短刀で、だいたいは凌げます』
「だいたい、では困る」
『時を稼いでもらえれば、あとはわたしが。もし間に合わず、〈取り替え子〉の母御の魂が敵の手中に落ちそうだということになれば、斬り捨ててください』
さすがに、ぎょっとした。
「斬れるのか、人の魂を」
『斬れると思いますよ。あなたはただの人間ではない。異界を感じるすべを持っているし、感じるものを斬る技術もあるはずです』
今はおぼろな影となって彼のかたわらに立つ〈琴手〉は、かすかに笑みを浮かべていた。
「お前が食った方が確実ではないのか」
『そこでなら、そういう話も口にできるわけですか。しかし、冗談はそれくらいにしておいてください。ちっとも確実ではありませんよ、その場にいるあなたが手を下すのに比べればね』
「その間、〈取り替え子〉は誰が守る」
『そうですね……勘のいい相手にあまりやりたくないのですが、葬儀の参列者の誰かを操りましょう。なにかあれば、捨て身で守らせます。それで、あなたが馳せ参じる時間は稼げるでしょう』
「わかった。しかし、葬儀のときと決まっているのか」
『火葬ですよ。焼かれれば、器をはなれざるを得ません』
静かに告げて、〈琴手〉は姿を消した。
斬った魂がどうなるかは訊かなかった。たぶん、〈琴手〉の映像がかき消えたように、消え去るのだろう。彼の目の前から。
そして〈琴手〉ははるか〈輝きの野〉に実体を残しているが、魂の方は、そうではない。
訊いてどうなることでもなかった。