CHANGELING - a funeral of WHITE
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〈妖精の女〉は、やって来るなり仕事にとりかかった。中庭にある噴水で、泣きながら病衣を洗いはじめたのだ。
『今夜ではない』
「では明日か」
『明日でもない。もっと先だ』
泣きながら女は答えた。まともに会話が成立しているのが、意外と言えば意外だった。
女は血の涙を流して彼を見た。
「誰の死を予言しているか、わかっているのだろうな」
〈妖精の女〉は顔をめぐらせると、病棟を見上げた。その眼差しがそそがれたのは、たしかに〈取り替え子〉の母親の病室だった。
『苦しんでいる。ひどい痛みだ。哀しんでいる。心残りが多過ぎて、なにひとつ考えられない。おお、おお!』
女は絶叫した。
鼓膜が破れるかと思われるような、激しい叫びだった。
この叫びを聞く者が自分だけだと知っていればこそ、彼は安心してその場を数歩はなれ——ふと胸騒ぎがして、女と同じ方向をふり仰いだ。
病室のカーテンが開いていた。
そこには、〈取り替え子〉の姿があった。
娘はまっすぐに〈妖精の女〉を見下ろしていた。
これだけの距離を経てなお、彼は娘の当惑と恐怖を感じとった。仔細にその表情を窺い、胸の痛みをも知った。
——この叫び声の意味を、把握しているのか。
死を予言する妖精と知っている——そうとしか思えない眼差しだった。
彼にはまったく気づいていない。娘は、ただ〈妖精の女〉だけを凝視していた。
娘が〈妖精の視力〉の持ち主であることは知っていたが、〈妖精の女〉の意味までわかるとは思わなかった。
請われるがままに〈妖精の女〉を招いたのは間違っていたかと考え、すぐに思い直した。
噴水で病衣を洗う存在の意味など、関係ない。彼女は自分の母親が死に瀕していることを、知っている。不吉な先触れなどなくても、知悉しているはずだ。
でなければ、あんなにも昏い眼差しで見下ろすはずがない。
災いを避けるように閉められたカーテンを、彼はいつまでも見上げていた。
——死ぬのだ。
苦痛に苛まれ、弱り果て、意識も混濁し、最後には自分自身すらわからなくなって。
とどめを刺してしまった方が、どれほど楽か知れなかった。少なくとも、彼にとって。そしておそらく、相手にとっても。