what i read: 魔法使いはだれだ
〈大魔法使いクレストマンシー〉


*Cover* 書名魔法使いはだれだ〈大魔法使いクレストマンシー〉
"WITCH WEEK"
著者ダイアナ・ウィン・ジョーンズ Diana Wynne Joned
(野口絵美:訳)
発行所徳間書店(BOOKS FOR CHILDREN)
発行日2001.08.31
ISBN4-19-861404-0

 私的DWJキャンペーン第二弾(ダークホルムはカウント外。以下同じ)。
 このクラスに魔法使いがいる!
 それは、一枚のメモからはじまった。魔法が禁止され、魔女や魔法使いは発見され次第つかまるご時世に、そのメモは爆弾同然。しかも、告発された「このクラス」とは、魔女や魔法使いと縁続きの生徒が多い、いわばラーウッド寄宿学校の問題児を集めたクラスなのだ。
 そしてそのメモがなにかの合図ででもあったかのように、実際に、魔法としか思えないことが起きはじめたのだ。音楽の授業の最中には、鳥たちが教室に次々と舞いこんでくる。一晩のうちに、学校じゅうの靴という靴がすべて集められてしまう。
 目つきが悪いチャールズと、女の子たちのあいだで仲間はずれにされているナンが、まず最初に疑われた。かれらは実際に、魔法の力があるのだろうか?
 前々から読まねばと思っていた〈大魔法使いクレストマンシー〉シリーズ(*1)を、まとめて購入。
 これを読むにあたって、どういう順番で読むべきかしばらく考えたが、とりあえずは本邦刊行順で読もうかと、『魔法使いはだれだ』からとりかかった。

 舞台は現代(に近い)。物語のはじまりは唐突で、ひとつのクラスにいる数人の生徒が日記を書きつづる情景を描く。ひとりずつ、焦点が移動していくので、とにかく最初に名前が頭に入らない。どの名前がどのプロフィールを提示された子なのか、自分ののみこみの悪さを適当にごまかして、少々の混乱は無視しつつ、無理に読み進める感があった。
 が、しばらく読みつづけると、しぜんと誰が誰なのかはわかるようになってきて、そうなったときにはもう、ひとりずつの個性をしっかり理解できている。
 どの子もそれぞれに孤独で、おのおの独自の価値観にもとづいて生きており、それを容易に枉げることなどしない。
 かれらひとりずつの「とんでもなさ」、そしてその自分勝手さが、物語の突拍子もない展開を支配し、ぐるぐると回転させ、あたかもサンボがのぼった木の下で虎がバターになったかのような現象が生じる。混沌から合一、そしてあらたな秩序(ハッピー・エンド)の到来である。
 ……と書いていて、我ながらかなり妙な譬えだという気がするが。

 この〈大魔法使いクレストマンシー〉シリーズは(そしてこのシリーズに限らずジョーンズの書く作品の多くが)、現代人が受け入れやすい「ファンタジー」のひとつの完成した形態をそなえていると思う。
 それは微妙にSF方向の概念である「平行世界(パラレル・ワールド)」的な概念のとり入れである。
 科学技術の代わりに魔法が発達した世界がある――そういう考えかたを提示されただけで、ファンタジー慣れしていない読者でも、比較的すんなりと「魔法の世界」に入ることができるのではないだろうか。

 だからといって、そこにあらわれる魔法の濃度が薄いということはなくて、実際、みっちりと魔法が詰まっているのは、お読みになったかたならご理解いただけると思う。
 窓から乱入する教室いっぱいの鳥、消えた大量の靴、口にしたことがすべて真実になる呪い。
 魔法は圧倒的な力であり、都合のよい万能解決策ではない。遣い手がふりまわされることも、ある。それを、ジョーンズはきっちりと描いている。
 ただ強い魔法だけでは、なにも解決しない。さりとて、魔法抜き(=力抜き)でも、うまくはいかない。では、解決へとすべてを導くのは、なにか。
 すべてを結びつけるコアとなり、導き手となるのはクレストマンシーである。とりあえず、彼の精妙なる魔法のわざを、堪能させてもらった。

*1 〈大魔法使いクレストマンシー〉シリーズ
 徳間書店版刊行順
  1. 『魔法使いはだれだ』
  2. 『クリストファーの魔法の旅』
  3. 『魔女と暮らせば』
  4. 『トニーノの歌う魔法』
 シリーズといっても連続性の強い話ではないので、どの作品から読んでも、とくに問題はないものと思われる。

読了:2002.08.27 | 公開:2002.09.27 | 修正:-


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