書名 | ショコラ "CHOCOLAT" | |
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著者 | ジョアン・ハリス Joanne Harris (那波かおり:訳) | |
発行所 | 角川書店(角川文庫) | |
発行日 | 2002.06.25(角川書店/2001.03) | |
ISBN | 4-04-290601-X |
街から街へ、風の向くまま気の向くままに放浪をかさねてきた母娘、ヴィアンヌとアヌーク。彼女たちが仮の宿りに選んだのは、ランスクネ・スー・タンヌという小さな村だった。ヴィアンヌは広場に面した空き家を借り、そこにチョコレートの店をひらく。同名映画(*1)の原作でもある『ショコラ』が文庫に落ちた(*2)。以前からすすめられていた本だったので、楽しみにして手にとったのだが、期待以上のおもしろさだった。
小さな村には不似合いな、瀟洒なチョコレートを売る店。だがそこで、ヴィアンヌは着実に地歩を築いていった。
年老いた犬を愛する老人、盗癖のある女性、神父に睨まれている果樹園のあるじ――そして街はずれに住む、ふしぎな老女。
「あんたは魔女だね」
ヴィアンヌの母は、たしかに魔女だった。そしてヴィアンヌは人の心を読むことができ、おさないアヌークは人の心を動かす力を持っていた。店を訪れる客に、かならずかれらが気に入るチョコレートを差し出せるのは、その力ゆえだったのかもしれない。
そして、村は少しずつ変化していった。だが、神父や村民会のメンバーには、そうした変化をこころよく思わない者もいたのだ――。
今朝、ショー・ウィンドーをのぞいてみました。白い大理石の棚に、金や銀の紙でできた箱、包み、三角袋がところせましと並んでいました。どれもこれも、薔薇飾りや鈴や花やハートや、カールをつけた多色づかいのリボンなどで飾られています。そして、ガラスの皿の上には、チョコレート、プラリーヌ、トリュフ、砂糖をまぶした菫の花……などが、半分だけ閉じたブラインドによって太陽光線から守られ、沈没船の宝のようにほのかに輝いている。月並みな譬えですが、アラジンの見つけた洞窟の財宝のようでした。そしてそれらのまんなかに、大作が鎮座していました。お菓子の家です。壁は、チョコレート掛けのパン・デピスで、金・銀のアイシングで細かな飾りが描きこんである。屋根瓦はフィレンツェ風クッキー。その屋根まで這い上がっている、果物の砂糖漬けとアイシングとチョコの絞り出しでつくった奇妙な蔓植物。そして、チョコレートの樹木には、マジパン製の小鳥たちがさえずり……そう、魔女がいました。とんがり帽子からマントまですべてチョコレートでできて、空飛ぶ箒にまたがっています。箒は巨大なマシュマロ――。祭りの屋台の貸し家の棚からぶらさがっているような、大きくて長い、ねじりを入れたマシュマロです。 p.32より
読了:2002.07.25 | 公開:2002.08.04 | 修正:-