what i read: 砂の覇王 6


*Cover* 書名砂の覇王 6〈流血女神伝〉
著者須賀しのぶ Shinobu Suga
発行所集英社(集英社コバルト文庫)
発行日2002.02.10
ISBN4-08-600065-2

 戦うめげない女の子のジェット・コースター・有為転変冒険ストーリー。〈流血女神伝〉(*1)の八冊め。
※シリーズもののため、あらすじは、既刊のネタバレを含みます※
 バルアンとともにルトヴィアに向かうため、船出したカリエ。だが、その船は海賊に襲われ、気がつけば悪名高き大海賊、トルハーンの船にいた。
 なんと、トルハーンはバルアン王子と旧来の知己であるらしい。その上、トルハーンの船には、謎めいたザカール人の美女、ことあるごとにカリエを助けてくれ、かつてはバルアン王子をその色香で完全に惑わした人物でもある、ラクリゼが乗り組んでいた。
 トルハーンの船にすっかり馴染んでいるバルアン王子とともに、海賊修行をはじめたカリエ。
 だがその頃、彼女の故国であるルトヴィアでは、皇后グラーシカの名を冠した最新鋭艦を先頭に、海賊トルハーンを討伐するための艦隊が出港の準備をとのえていた――。
 例によって例のごとく、新しく過酷な環境に投げ入れられても、めげずに立ち直るカリエ。このヒロインが見せる前向きな姿勢が、読者を惹きつける最大の要素だろうと思う。
 読む者に伝染するほどの、バイタリティ。漲る負けじ魂、元気と思いきりと突っ走り。このヒロインがいるからこそのシリーズであり、彼女以外の主人公は考えられないと思わせられるほどの存在感。
 突出した能力があるわけではなく、ただ単純に素直で、元気で、前向きで、負けず嫌いで、ということだけで、ここまでキャラクターがきっちり立ってしまうのは、作者の筆力の賜物であろう。

 まわりをかためるキャラクターは、皆おそろしく個性的なわけだが、今回は海賊トルハーンやマヤル・バルアン、それに今までとはずいぶん違う姿を見せて、人間らしさを増してきたラクリゼあたりに注目しつつ読むのが一般的だろうか。
 人質として差し出されるおさないイウナ姫のエピソードあたりも、ギュイハムのことを思い出してみれば、かなり重たいポイントなのだが。
「パージエさま、わたしは、とっても悪い子供なのだそうですね。そんなこと思ってもみなかったので、母にそう言われたときは、とても悲しかった。わたしはただ、父や母にいい子だと言われたくて、がんばってきたつもりだったんですけど、どこかで間違ってしまったみたいなんです。だから、もうここにいることは、できません」(p.136)
 この聡く孤独な子どもが、誰かに褒められるためではなく、自分が自分を好きでいられるための生きかたを、移り住んだ場所でみつけてくれることを、切に希う。

*1〈流血女神伝〉
『帝国の娘(編)』に始まったシリーズ。『砂の覇王』に入って順調に巻をかさねているが、読むならば、できれば『帝国の娘』から。前作は『砂の覇王 5』。
 →感想

読了:2002.02.04 | 公開:2002.08.12 | 修正:-


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