what i read: 読書中毒 ブックレシピ61


*Cover* 書名読書中毒 ブックレシピ61
著者小林信彦 Nobuhiko Kobayashi
発行所文藝春秋(文春文庫)
発行日2000.05.10(第一部『小説探検』1993.10/本の雑誌社)
ISBN4-16-725609-6

 掲示板での『ハンニバル』話(*1)の流れで買ってくる。ひさしぶりだなあ、小林信彦さんの本を買うの。昔はよく読んでいたのだ。
 とはいえ小説ばかり読んでいたので、評論系の本を読むのはこれがはじめて。おお。おおおおお。おおおおおおお! すんっげぇおもしろいじゃないすかコレ!!!!!!
 本を好きでしかも頭がよくてそのうえ筆のたつ人が、本について語っている本……って、すばらしい。
 ひさしぶりに同氏の小説本も読みたくなったし、紹介されている本も読みたくなった。紹介されている本のほとんどを読んでいないのに、それでもなお読みものとしておもしろく、なおかつ紹介されている本をとてつもなく読みたくなってしまうという、おそろしい一冊。しかも一項目ずつの量がタイト。もっとみっちり書かれたものを読みたいと思う反面、この文字量でこの内容かと思うとクラクラする。
 しかも、本稿連載にあたっての姿勢がすばらしいではないか。あとがきから引用するが、
〈物語をいかに語るか〉という形で小説評論が書けないか、という相談を北上次郎氏にされたときには、そうむずかしいことではないと思った。
 これが間違いだった。じっさいにとりかかってみると、まず、ミステリがとり上げられない。とり上げれば犯人を割ってしまうからである。
 次に、ある小説をとり上げてみようと考えたとしても、それが(文庫本でさえ)絶版または品切れになっているのが現状である。むしろ、入手不可能な本のほうが多いほどだ。そういう本ばかりでは読者に失礼にあたる。
 読者から(文中で評論した本を)読書する愉しみを削がず、またできる限り読書の機会を与えようという、この姿勢。
 これは大切なことだと思うのだが、案外忘れられていたりすることのひとつでもあると思う。
 たとえば、本の巻末に、ネタバレであると断りもなしに、物語の後半で明かされる秘密にふれた解説が掲載されてしまうことだって、ある。それを避けるのは、当然の努力だと思うのだが、同時に、とある物語について文章を書くとき、その結末にふれず、仰天動地の展開をぼかしながら評価することは、困難でもある。だから、つい結末にふれた内容になってしまう、という事情もわからなくはない。
 そしてまた実際、小林氏が書いているように、名作であろうと過去の作品はどんどん絶版、品切れになってしまっている。それが入手可能かをきちんと考慮する方が望ましいとわかっていても、考えずに書いてしまった方が、楽なのだ。
 つまり、小林氏はこの本で、楽な方への逃げ道をふさぎ、みずから厳しい基準をもうけたうえで、ブックガイドをものしているということになる。
 そういった縛りがあったうえでもなお、これだけのものを書いてしまう。
 小林信彦、やっぱりおそるべし。

*1 掲示板での『ハンニバル』話
 この『ハンニバル』は当然、T・ハリスの『ハンニバル()』のこと。発売されて暫くたったところで、この本に関する話題が掲示板で盛り上がったことがあった。ログは流れてしまっており、保存はしていない。
 当時の自分の感想をできるだけ簡潔にまとめて書くと、
「結末は壮大なファンタジーとして読めるし、その意味で完成度は高いものの、サイコ・スリラーとして始まったシリーズの着地点として、読者があらかじめ期待するかたちを(少なくともわた個人にとっては)悪い方向に裏切っており、少々がっかりした」
 ……といったところか。掲示板で堺三保氏から、
「トマス・ハリスが感じているに違いない、緻密なリアリティ構成への疲れと、レクターのスーパーマン化について小林信彦氏が予言している」
 という情報を得て、本書を読んだわけであるが、すべて記憶で書いているので、いささか認識に誤りがあるかもしれない。ご容赦願いたい。
 [2002.08.12 追記] 掲示板での『ハンニバル話』に直接ふれた文章があったことを思いだしたので、リンクしておく。【うさぎ屋本舗 1.5遠響残滓より「レクター博士」の項。

読了:2000.05.15 | 公開: | 修正:2002.08.12


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