おまえの声には、力がある。おまえの歌には魔法がある。
だが、それらは未だ磨かれざる珠に過ぎない。
※以下、リンク先の解説は本編のネタバレを含みます。
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妖魔の王(シリエン/シルヴァーリエン):この世に知らぬことなどないとうそぶき、アストラを道案内に魔法の庭を目指す。彼の前で妖魔は問えば名のり、王と崇めるが……。
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『風の名前』の妖魔使いの……これは何年後の姿なのか。けっこう人間の歴史は動いているような。
前作とくらべると、妖魔に名告りを強いずに名前を受けたり、王と呼ばれたり、ずいぶん妖魔との関係が変わっていて本人びっくり! というところ。最後の最後でヒスリムとの再会も果たし、大巫女の記憶をなつかしんだりもして、ずいぶん人間っぽくなったなぁ、と。
シリエンは肩をすくめて答えた。
「夜、やすらかに眠るために」
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アストラ:南方王国の若きうたびと。将来を嘱望されていたが、偶然耳にした北の音楽に魅了され、禁忌の多い自身の職業を捨てて国を出てしまう。その勢いでイザモルドの庭に辿り着いたこともある、強運の主。
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シリエンとは逆の意味で書くのが楽な、フツーの善人、アストラ。1巻ではいいところがないので、なさけない人だと思われていたらしい。そりゃ常識の違う国へ行けば(しかも周囲が常識はずれの超人だの人外だのばかりでは)、苦労もしようし誤解もしたりされたりしよう。……まぁ、基本的に歌がうまい以外に取り柄はないので、本国でも駄目人間といえば駄目人間なのか。
同名の車種があったりウルトラマンがいたりするようだが、関係ないのでゴメンナサイ。
なあ、あんたなら妖魔の声が聞こえるんだろう?
シリエンがどれほどの悲鳴に耐えなきゃならないか、わかってやれるんだろう?
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エイーシャ:別名、サーライの魔女。氷姫が北の大地に結びつけられているのと同様、サーライという土地に限って絶大な力を発揮する。どうやらシリエンに心を寄せているらしいのだが……。
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なぜか赤毛と思われがちの人。髪は黒なのになぁ。最初に登場したとき赤マント赤化粧、爪も赤! と書いた印象が髪に移動したのか……。謎! まあ、「サーライ」という地名も「エイーシャ」という名前も、するっと出てきて楽をさせてもらったキャラクター。
彼女が登場する別伝というか、後日譚のような短篇を書いたことがあって、そこではやはり南から来た生き残りの北方人と出会っている……はずなのに、もう中身をサッパリ忘れてしまい、どんな話だったのか不明。題名は「水面の薔薇」だったはず。
そなた、妾に申したな。妾なら、あの方の苦しみがわかるだろうと。
妾もそのつもりじゃった。でも、今はわからぬ——ほんとうに、あの方と同じものを聞いているのか否か。
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アーン:エイーシャのもとに繋ぎとめられている、強大な水の魔物。ユミルのアーンともいう。美声の持ち主で、あらゆる北方歌謡に通暁している。
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こんな予定じゃなかったシリーズの筆頭キャラクター、ユミルのアーン。ちなみに「アーン」は南方語で闇をあらわし、この魔物があらたな名をうけるにあたって、すでに南方の影響をまぬがれ得なかったことを示しているわけで、書いた当人もいま説明するまで忘れてた次第。でも設定上はそうだったはず。
ヴィンラッドの領主とかいってるけど、この時点では「ナニソレ?」と思っていた。つまり、必要ない設定はできていたが、必要な設定はぜんぜんできていなかったという、まぁよくあることなのでいちいち動じていたらキリがないと。
あの歌も、かつてはよく耳にしたものだった。あの歌の力なのだろう、今までになくつよく思いだす——我が領土、星の鏡、永遠の静寂に満たされたヴィンラッド。
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デュイン:風の妖魔。アストラの回想から、魔法の庭の入口には金剛石があるはずだと考えたシリエンが、それを探すために協力を求めた。人に長く使役された経験があり、雪白の豹の姿をとる。
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端役といえば端役。でも、なんとなく気に入っていたキャラクター。妖魔のくせに、やたら人間臭いし。人間につきあい過ぎて、すっかり考えかたが歪んでいる感じが憎めない。
妖魔の王がなぜ妖魔使いから妖魔の王に変わったのか、そのあたりをもうちょっと詰める話があるといいのにねぇ。と、他人事のように書いておこう。
ソノウチ、故意ニ術士ニ名ヲ与エ、奪イ返ス遊ビニ懲リハジメテナ。ウッカリ相手ヲ見クビッタト気ヅイタトキニハ、サカライヨウモナイ強大ナ相手ニ名ヲオサエラレテイタ。
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ハバラク:国境付近にある小さな酒場『はて見亭』の主人。もとは北方王国の騎士だったという。アストラを匿ってくれていた。
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ハバラクは3巻にもちらっと登場。北方王国の騎士が生き延びて酒場の亭主に……という例は滅多にないだろうし、ハバラクはかなりできる人だったのだろうと思う。社会適応力が高いというか。アストラを匿ってやろうとするあたり、義侠心も捨てていないわけだし。
ひょっとすると、作中随一の常識人かも……。
わしを……わしを覚えている者が、いたとは。わしを〈稲妻の剣〉と呼ぶ者が。
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大陸書房版について:1992年、同名の『魔法の庭 1 風人の唄』が刊行されたものの、出版社の破産により2巻以降は刊行されないままだった。
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『風の名前』の方のnoteにも書いたが、その後、出版してくれるという豪気な版元がなくて放浪し、ようやく半澤氏に拾ってもらえて完結に至ったわけで、実に7年越しの再刊となった。ちなみに半澤氏は『風の名前』『魔法の庭1〜3』『真世の王』そしてこれを書いている時点では近刊となる『ロマンシング サガ ミンストレルソング』のノベライズも担当してくださった、大恩人。彼と組むと自由に書かせてもらえるので助かるが、いつも売り上げという数字のかたちでお応えできず、ゴメンナサイ……。
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風人の唄:あとがきにかえて
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風人とは風流な人、あるいは詩人という意味である。ここでは南方王国の職業的な「うたびと」であるアストラをさすと考えてもらっていいだろう。
この話、最初に考えたときは短篇連作の形式で、第一章のようにアストラが南方王国の歌謡に歌詞をつけてシリエンに聞かせ、その物語に秘められたより深い真実を知る——という流れを考えていた。つまり、南方王国の神話が主で、魔法の庭を訪ねる旅は従、背景で静かに展開していくという雰囲気を、当初は想定していたのである。いったいなぜこうなってしまったのか……。
さらに原型へさかのぼると、南方王国のうたびとや妖魔の王は関連しておらず、北方歌謡だけがあった。例の「いざ聴けや詩神の聲」の形式でイザモルドの半生を描いて、絵物語風の個人誌をつくろうと思っていたのであるが、絵が描けなくて挫折した。
もっと掘り返してみると、ラファエル前派の画家、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスに『The Enchanted Garden』という絵があり、おそらくその絵の題名の記憶——絵自体ではなく、あくまで言語的イメージの方である——が、この物語のさいしょの、重要な破片だったのだと思う。そこに、タニス・リーの短篇「アヴィリスの妖杯」を読んだときに感じた、ああ、「魔術的な場としての庭」っていいなぁ、という自分でも「なぜそこがポイント?」と首をかしげたくなるような思い入れを加味して醸成されたのが、氷姫の魔法の庭である。
そのわりに庭についてはそう多く書かなかったかな、と今にして思う。
優美な曲線を描く鋳鉄の門扉に手をかけて、イザモルドは立っていた。
なかばひらいたその門の向こうには、さんさんと陽のふりそそぐ庭園が見えた。
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