映画『ロード・オブ・ザ・リング』原作未読者用 FAQ

公開日:2002/03/10 | 2004/03/02改訂

 以下の文章は、映画『ロード・オブ・ザ・リング』を原作(『指輪物語』)をお読みにならないままご覧になったかたの、素朴な疑問にお答えするためのものです。映画ならびに原作のネタバレになっておりますので、ご注意ください。どこかのファン・サイトにこういうページがないかと思ったのですが、とりあえず見当たりませんでしたので、役不足も顧みず、自分で作ってしまいました。

 実際に質問があったものや、これは原作を読んでいないとわかりづらいだろうという設定をとりあげ、簡単に解説しています。あくまで「簡単に」ですので、詳しいことはトールキンの原作をお読みください

 あからさまな間違いのご指摘や、新たな質問は、掲示板で受けつけています。指輪物語専用掲示板がありますので、ご利用ください。

 掲示板やチャットで質問してくださったかた、そして回答してくださったかた、ありがとうございました。原作を読んでいないとこう見えるのか、そしてまた詳しく読みこむとこういう話なのかというあたりがわかって、わたしもとても楽しかったです。

 要するに、この文章はそうした活動から生まれたもので、回答しているのはわたしひとりではありませんが、文章をまとめて公開したのは妹尾であり、誤解や誤りがあった場合、その責任はすべて妹尾にあるものとします。

 なお、本ページは映画第一作「旅の仲間」のみに対応しております。「二つの塔」「王の帰還」は扱っておりません。


索引


ラゴルンとボロミアが見分けられない!
→原作を知っていれば、台詞やその場の流れでわかるのですが、あらかじめ知らないと見分けが困難なようです。見分ける方法はいくつかあります。
1)髪の色が暗い方:アラゴルン 色が明るい方:ボロミア
2)服が無地:アラゴルン 飾りがある:ボロミア (ボロミアの服は袖に模様があるので、肩口が見えれば見分けられます)

リーとピピンが見分けられない!
→ふたりセットで登場するのでこれも難しいようです。
1)髪の色が明るい方:メリー 暗い方:ピピン
2)勇気をもって特攻野郎:メリー 巨大な天然墓穴掘り:ピピン
 シーンごとに例をあげてみましょう。
a)ビルボの誕生日パーティー、花火を盗もうと思いついたのも、もっと大きいのをとれと唆しているのもメリー、実際に花火を手にとったのはピピン。
b)裂け谷の会議、先に飛び出して喋った方がメリー、後から来て「で、どこへ行くの?」とボケたのがピピン
c)モリアの坑道で、井戸に鎧を落としたのがピピン
d)ウルク・ハイの襲撃シーン、先に「ここだぞー!」と声をあげたのがメリー、ボロミアが倒れたときも先に剣をふりあげて突進したのがメリー

ムはどうしてフロドに敬語を使うの?
→サムは庭師なのです。だから、最初にフロドとガンダルフが話しているのを立ち聞きしてつかまったときも、「草を刈っていた」という言いわけをしているのです。

韋駄天」って名前が変。
→英語では「Strider」です。これは「ストライド走法」の「ストライド(Stride)」ですから、「大股に歩く人」という意味の綽名、通り名でしょう。瀬田貞二氏による翻訳では「馳夫(はせお)」となっています。筆者の個人的価値観では、「韋駄天」はあきらかに世界観をそこなう訳ですが、字幕担当のかたがファンタジー愛好家でなかったのでしょう。違和感をお感じになったあなたは、ファンタジー愛好家と拝察いたしますが、如何でしょうか?

ルウェンって後でまた出てくるの?
→アルウェンは原作から大きく役割を変更されているのですが、後で出てこないことはないと思います。原作の方ではほとんど「そういう人物が存在している」程度の登場しかないものが、映画化にあたって作品のエンターテインメント化をはかり、役割を強調されてこのように変更されたものと考えるのが妥当でしょうから、今後、原作より出番が増えることはあれ、減ることはないのではないでしょうか。
 たとえば、フロドを馬に乗せて「裂け谷」へ運んでくれるのは、原作ではグロールフィンデルという別のエルフです。

ンダルフを助けに来た蛾と鷲の関係って?
→ 映画では、塔の上を通りかかった蛾にガンダルフが話しかけ、大鷲に助けに来てくれるよう伝えてくれと頼んでおいたのが、ぎりぎり間に合った、ということでしょう。
 ガンダルフが蛾にささやきかけている場面は、字幕版だと何を言っているか聞き取れませんし、字幕も出ません。吹き替え版だと「××、グワイヒア、△□」と大鷲の名前くらいは聞き取れるそうです。
 原作では、ガンダルフはサルマンのもとへ自分から行くのではなく、同じく魔法使いの茶色のラダガストに「サルマンが呼んでいる」と教えられて行きます。そのとき、「冥王の動きについて知っていることはなんでもガンダルフに報せてくれるよう、鳥や獣にもたのんでくれ」と、ラダガストに依頼していたのでした。そのために、はからずも塔の天辺から脱出することがかなったという流れになります。

ルロンドってハーフなの?
→エルロンドはたいへん珍しい半エルフです。映画パンフレットの相関図にはお父さんが人間、お母さんがエルフとありますが、どうもこれは日本のみの誤った情報のようです。映画の設定としても、英語公式サイトにはそういう記述はありません。
 原作ではもう少しこみいった血筋の生まれで、6割ちかくエルフ、4割弱が人間、のこり数%は下級の神様の血をひいています。
 原作『旅の仲間 下』で会議にたどりつけば、ご本人が説明してくれます。

け谷にあった折れた剣ってなに?
→物語の冒頭でサウロンの指輪を斬り落としている剣、あれが裂け谷に置かれていて、ボロミアが指を切って「まだ鋭い」と感心し、アラゴルンが拾って祈りを捧げた剣です。
 原作では、ボロミアの弟ファラミアが、「折れたる剣を求めよ そはイムラドリス(裂け谷)にあり」という夢をみたため、ボロミアは裂け谷にやって来ました。エルロンドの会議でその「折れたる剣」とは要するに折れた剣を使ってサウロンを倒したイシルドゥアの末裔、つまりアラゴルンのことだという解釈がおこなわれます。
 ボロミアとアラゴルンの関係も、もう少し詳しく説明しておきましょう。
 エレンディル(折れた剣の持ち主)の家系は息子の代でふたつに別れました。イシルドゥア(サウロンの指を斬り落とした人)の子孫はその北方を治めました。ボロミアの出身地であるゴンドールは、アナリオンが継いだ南方の半分です。このアナリオンの家系は悪疫で絶えてしまい、ボロミアの家系が王不在のまま執政家としてゴンドールを治めています。
 ですから、ボロミアは裂け谷で、主家筋にあたる胡散臭い男を発見してしまったことになります。お互い、複雑な心境だったことでしょう。

ロミアのお父さんって死んでるの?
→死んでいるかのように誤解させる字幕が何ヶ所かありましたが、生きています。遠からず、彼も重要人物として登場することでしょう。

ラドリエルって悪役なの?
→違います。ロリエンのシーンは映画で「原作からの改竄で最悪と思われる」部分であると、筆者は思っています。端折られているのはしかたないのですが、アレンジの結果、ガラドリエルのキャラクターの位置づけも、一般的な解釈からはなれてしまったと感じます。
 ガラドリエルは、自分の領土であるロリエンをおさめる、エルフの貴婦人です。彼女の水鏡を見るのは原作ではフロドだけではありません。
 また、映画ではフロドに小瓶が手渡されるところしか出てきませんでしたが、一行それぞれに個別の贈り物もくれます。原作ではエルフと仲の悪いはずのドワーフのギムリが、ガラドリエルにひとめ惚れして、この別離の際のプレゼントの場面で、あなたにはなにを贈ればよいかわからないと言う奥方に、髪をひと房くださいと所望するエピソードがあります。

ラドリエルとケレボルン、ガラドリエルの方が偉そうなのはどうして?
→原作でもケレボルンは影が薄いのですが、ロリエンの実質上の支配者はガラドリエルと言ってよいでしょう。家柄でも実力でも、ガラドリエルの方がエルフとしてケレボルンより格上、と思えばわかりやすいかもしれません。ただし、そのガラドリエルと結婚してしまうケレボルンは、やはりただものではないでしょう。

ゴラスって何歳なの?
→映画の公式ガイドブックでは2931歳となっています。
 原作には正確な年齢の記載はありませんが、三千歳にはなっていない(が、三千歳に近い)程度と思われます。旅の仲間九人のなかでは、ガンダルフに継ぐ高齢者となりますね。
 映画では登場シーンが漠然としているのでわかりづらいのですが、レゴラスは裂け谷のエルフではなく、闇の森のエルフの王子です。裂け谷やロリエンのエルフとは属する文化圏も少し違うようです。

ナス・ティリスってなに?
→ボロミアの出身地で、ゴンドールの国の首都です。

クセリオンの白い塔ってなに?
→ミナス・ティリスのてっぺんにある塔です。1階に執政の御座所があります。代々の執政のうちエクセリオンという名の人はふたりいました。ボロミアのお祖父さんがエクセリオンII世で、たいへん有能なひとだったそうです。

考に本を買いたいんだけど、どれがいい?
→映画館でパンフレットを買いませんでしたか? あれで満足できないかたは、角川書店の緑のハードカバー二冊『ロード・オブ・ザ・リング公式ガイドブック』と『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』のどちらか、あるいは両方を買いましょう。映画のスチルもたくさん入っていますし、見て楽しく美しい本です。題名でおわかりのように、ガイドブックとして買うなら前者でしょう。
 それよりつっこんだ内容を知りたいかたは、関連参考書各種ではなく、なによりもまず原作をお読みになることをおすすめします。なぜなら、参考書はすべて原作のネタバレになってしまうからです。

 原作の『指輪物語』は文庫、ハードカバー、豪華本と三種類あり、どれも評論社から出版されています。
 追補編にはアルウェンとアラゴルンの馴れ初めや、その後のエピソードなどもおさめられています。本編だけでは語られていない部分が気になるかた、本編をおもしろいと感じられたかたは、ぜひ追補編も読んでみてください。
 2004.03.04追記:文庫版でも「追補編」が手に入るようになりました。10巻が「追補編」にあたります。

 前日譚である『ホビットの冒険』は、岩波書店と原書房から刊行されています。原書房刊の『完訳 ホビット』は訳者のかたが『指輪物語』と違う上、固有名詞そのほか単語が『指輪物語』と統一されていませんので、混乱するおそれがあります。
 岩波書店から出版されている版ですと、翻訳も『指輪物語』と同じかたです。ハードカバーもありますが、少年文庫版()は軽くて持ち運びにも便利です。

 原作を読んでしまわれたかたは、次に進んでください。
 現在、お買い得感が強いのは、角川文庫から出ている、青い表紙のリン・カーターの『ロード・オブ・ザ・リング 『指輪物語』完全読本』です。まったく同じものがハードカバーでも出ていますが、これは、ずいぶん前からハードカバーで別の出版社から出ていた『トールキンの世界』という書籍の新版です。ようやくの文庫落ち! なのですが、内容がやや古いことは否めないという評価もあります。
 ファンのあいだで特に評価が高いのは、河出書房から出ている『指輪物語完全ガイド J・R・R・トールキンと赤表紙本の世界』です。
 また、以前から邦訳が望まれていた『「中つ国」歴史地図 ― トールキン世界のすべて』も、最近出版されました。こんな濃い本が一般書店店頭で拝めるとは!
 その他、濃い本についてはファン・サイトの評価を確認しながら物色なさることをお勧めします。ファンに定評のあるものをお選びになれば、映画に便乗しただけのうすっぺらい読み物を避けることができるでしょう。
 オンライン購入には、amazon の【トールキン・ストア】や、bk1の【指輪物語フェア】が便利です。

 尚、amazon へのリンクからお買い上げいただくと、筆者に微妙に収益がございます。筆者に利益を与えずに、オンラインでお買い物だけなさりたいかたは、リンク末尾の「/usagiyahompo-22」の部分だけ消してくだされば、大丈夫だと思います。クリックだけで即購入ではなく、書籍の情報ページへ飛ぶだけですから、まずはどんな本なのか、書影や価格などを確かめてみてくださいね。

 推薦リンク→『ロード・オブ・ザ・リング』感想リンク集:レビュー&感想リンク編関連リンク編
       (有里さん、ご苦労様です!)

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