- プロローグ -

 流砂のほとりに、その街はあった。

 なんという名であるのか、どこの国に属しているのか、領主はだれであるのか——そういったことは、ひとつもわからない

 訪れる者もなく、出てゆく者もいない。満天の星の下、街はただ静寂の内に横たわる。眠りにおちているというよりは、息をひそめてなにかを待つのに似ている——そんな静けさだ。

 白く塗られた壁の内がわで、人々はひっそりと暮らしている。

 そんな街だった。

 その静けさも、ときには破られる。

 一年にいちど、祭りの夜こそが、そのときだ。

 祭りの名を『仮面祭』という。

 その祭りを見た者は、だれもいない。うわさを聞いて、ひとめ見ようとでかけていった者もいたが、いったいどうしたものか、ついに帰ってはこなかった。

 流砂にのまれたのだとも、祭りにとらわれたのだとも、また街に居ついてしまったのだともいう。だが、確かめた者は、ひとりもいない。

 そうして、幾年もが過ぎた。

仮面祭