流砂のほとりに、楽士はひとりとり残された。彼の手もとには、あの仮面だけがあった。
魔王の仮面に秘められた魔力は強大であった。楽士の望みはなんであれ、たちどころにかなえられた。
彼は魔力をふるい、そこにひとつの街をつくった。
それは白い壁の家々が立ち並ぶ美しい街であり、楽士の故郷にすこし似ていた。
彼はそこに幾人もの美姫をつくり上げ、異国の宝物で住まいを満たし、歌をうたうことさえ忘れて日々を過ごした。
仮面の魔力はゆっくりと楽士をむしばみ、やがて、楽士はすっかりおのれを見失ってしまった。
仮面は楽士を食らった。
あれほどの魔力をもつ仮面の主たるには、楽士のたましいは軽すぎたのであった。
楽士にとって、それは阿片のごときものであったやもしれぬ。こよなく麗しい夢をみさせてくれたはずの仮面が、やがて悪夢の帝王となり、そうなってもなお、手ばなすこともできなかったのであった。
そうして、仮面そのものはいよいよ美しさを増し、魔力をも増した。いまや、仮面は自ら意志をもち、おのれの望むところを行うようになっていた。
夢とうつつの区別もつかなくなってはいたが、いつしか楽士はおのれのつくりあげた街をこよなく愛するようになっていた。
ふと、彼は思った。
もしも自分が死んだなら、かつてヤーヌーシュがいのちを落としたとき、彼がつくりあげたものが消え去ったように、自分がつくったこの街も消えてしまうのであろうか、と。
楽士は愕然とした。
仮面もまた、楽士が死んだなら拠りしろも失われ、魔力を用いることができなくなることに気づいた。
それは、耐えがたいことであった。
その日から、楽士と仮面とは、ただこの街を永遠のものとすることに全力を傾けるようになった。
彼らはまず、流砂によって旅人のいのちを奪った。
そうしてそれらの哀れなたましいを地上に留め置くべく、彼らの骨を家々に埋め、またひとりずつに永生を約した。そうすることによって、仮面以外の魔力が加わったので、拠りしろが失われても、街がすべて崩れ落ちることはなくなった。
いくつものいのちが失われ、いくつものたましいが囚われた。
やがて楽士のたましいは衰え、生気も吸い尽くされ、彼は熱い砂の海に倒れ伏した。かつてはかがやいていた彼の両眼は闇に覆われた。そのようにして、彼のたましいは永遠に失われたのであった。
彼の名はなんといったのか、生国はどこであったのか——それを伝える者もない。
楽士が死んだとき、魔王の面は、漏れ出た彼のたましいの最後の息吹までも吸いとり、かねて用意の拠りしろである、街に迷いこんできた少年を巧妙に呼び寄せた。なにも知らぬ少年は、沙漠に落ちている仮面の美しさに驚嘆しつつ、それを手にとった。そして、かすかな呼び声に従って、自らの顔にそれを重ねた。
その瞬間から、少年は魔王の面の忠実な奴隷と化した。
魔王の面は少年に命じて、家々に埋められた死体から頭蓋骨を切りはなし、その前面、顔にあたる部分を切りとって仮面となした。
その仮面から、あらたな街の住人が生まれ出た。彼らは生きていたころのわずかな記憶をたよりに、魔法の街で暮らした。
そのわずかな記憶さえ、やがては魔王の面に吸いとられて消えゆくことも知らずに。
年にいちど、贖いの祭りがおこなわれた。
そのとき、人々は白い骨の面をあらわにして、自らの心に秘めた、ありとあらゆる美しい夢を放出した——それを魔王の面は吸いとって、おのれを養う糧とした。
そのようにして、今も魔王の仮面が治める街があるという。
流砂のほとりに、ひっそりと、その街はあるのだという。
沙漠で死んだもののたましいをさがすならば、その街をめざして旅するがいい。
白い壁にかこまれた街路で、なつかしい顔に出会うことになろう——そのときは、自らもまた街の住人となっているであろうが。