その夜、詩人はすこし遅れてあらわれた。
みごとな黒髪を、今宵は布で巻いてひとつにまとめ、それを大粒の翡翠をあしらったピンでとめていた。
「遅くなりまして」
にこやかにそういうと、長衣の裾をかるく手ではたき、縫い目やひだのあいだにたまった砂を落とした。
「流砂にでも落ちたの」
娘がたずねた。すでに、中央の卓について彼を待ち構えている。
「遺憾ながら」と詩人は答えた。「おっしゃるように、黄色い砂の渦に落ちてしまいました。それで、このように遅れてしまったのです」
「まあ、よく脱け出られたものね」
娘は感嘆の声をあげた。ほかの人々も、かすかにざわめいた。
「うまい具合に」
そういって、詩人は微笑した。
「そのまま呑み込まれてしまえばよかったのに」
まじめな声で、黄色い髪の若者がいった。彼も今宵は光のあたる中央近くに陣取っている。
「おや、口の悪いぶんだけ顔がいい」詩人は目をまるくして、つぶやいた。「それともこれは、世をはばかる仮面であろうか」
ごく低い声でいったので、その声を聞いたのは、ひとり星の瞳の娘のみであった。
「あなたのお顔も仮面なのかしら?」
彼女がまぜっ返すと、詩人は肩をすくめてこういった。
「残念ながら、はずすことはできません。もしもはずせるものならば、いろいろな仮面をかぶり、夜毎ことなる姿であらわれましょうものを」
「姿はいいから、あなたの声に違う色をのせてちょうだい。物語のつづきを、語り直してちょうだいな」
「みなさま、それをお望みで?」
楽器をかまえながら詩人はたずねたが、もとより返事は期待していなかったものか、ほとんど間を置かず、次のような物語を語りはじめた。