- 第一夜(承前) -

 ハルウィオンの弦が、耳に聞こえるか聞こえないかというほどの高音を、ぴーんとあたりに響かせた。

 人々は、我に返った。

「いかがでしたか」

 詩人は、やわらかに微笑した。

「これで終わりなの?」

 さっきの娘が、頭を二、三度ふってからそう尋ねた。

「いかにも。終わりかたは、いく通りもありますが」

「わたし、この終わりかたは嫌だわ」

 詩人が星にたとえた双眸を、娘はきらめかせた。

「ああ、でももう夜も遅い。つづきをお聞きになりたいなら、どうぞ今宵一夜、わたしに宿を与えてください」

 物語にあらわれたヤーヌーシュさながら、音楽を思わせる美声で詩人はうったえたが、だれひとりとして、その願いにこたえる者はなかった。

 その夜空の眼を伏せ、詩人は楽器を袋に納めると、ゆっくりと立ち上がった。

「わかりました。では、今宵は私も帰るといたしましょう。明晩、またお会いできますように」

 そういって、彼は酒場を出て行った。

 流砂にとらわれて死ぬであろうか。夜道を徘徊する魔物に襲われて、逃げまどうであろうか。

 そんなことを、いあわせた人々は考えたかもしれなかった。

 やがて、彼らも家路についたので、ちいさな酒場は空になった。